『内田樹による内田樹』-編集者の自腹ワンコイン広告

2013年9月13日 印刷向け表示
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内田樹による内田樹

作者:内田樹
出版社:140B
発売日:2013-09-06
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内田せんせ(※大阪弁の発音を字にするとこうなる)が、ゼミで自分の本のことを話すんですって

あれは3年前。内田樹先生が当時勤めていた神戸女学院大学を退職される前年、2010年の夏頃だったと思う。大学院で開講していた社会人聴講生を交えたゼミのテーマが、「内田樹の自著解説」に決まったという話を耳にした私は、社内の定例会議でそのことを持ち出した。

 

予想通り、岸和田のだんじりエディター(@内田樹)こと江弘毅をはじめ、会社の全員がノッてきた。

「それはおもろいな。本にしたら絶対売れるわ」

「内田せんせが、なぜこの本を書いたのかを解説するんです。

これを読めば内田樹の頭の中がわかる…と」

「なるほど。タイトルは、『内田樹による内田樹』か。うん、ええな」

「ファンの人も編集者もみんな買いますよ!」

「ほんまやな。わはは」

「そうですね。わはは」

 

と、おおむねこんな感じで一瞬のうちに出版企画が立ち上がった。それから半年間、内田先生にとって“最後の授業”の一つとなった毎週火曜日5限目に行われるゼミに通い、授業をテープに録音し、それを文字に起こす作業を繰り返した。

 

ゼミでは毎週1人の聴講生が気に入ったウチダ本を選び、その内容や自分なりの感想を交えて発表を行い、それを受けて内田先生が執筆した当時のことをふり返って話す。取り上げられたのは『ためらいの倫理学』『先生はえらい』『下流志向』『昭和のエートス』といった代表的な作品から、『レヴィナスと愛の現象学』や翻訳書の『困難な自由』『レヴィナス序説』など、内田先生の原点とも言うべきエマニュエル・レヴィナスの研究に関わるものまで。すんなり本の解説に進む時もあれば、ぜんぜん違う方向へ話が転がる時もあったが、今まで聞いたことのない話ばかりだった。

 

特にレヴィナスに関する本を取り上げた際は、今のように多忙な生活になるずっと前、翻訳を黙々とこなしていた頃の話などもあり、内田先生の研究・執筆人生を知る楽しさがあった。そこに神戸女学院での授業もこれで最後というやや感傷的なムードも加わり、これは思い入れたっぷりの本になるぞ…と確信したものであった。

 

内田先生はこれまで何度も授業の内容を元に本を書かれているが、その中には、「少し触るだけでオッケー」なものもあれば、「ほぼ全編書き下ろし」のものもあるという。確認したところ、多忙を極めていたこともあり、「削ってもらって構わないので、完成度を高めてからゲラを送ってほしい」とのことだった。

 

というわけで、テープ起こし原稿を編集してくれたフリーライターの大越裕さんと江弘毅が差し向かいとなり、みっちり再構成することになった。江はしきりに「ウケ点(読点)の打ち方がむっちゃ難しいのぉ」と唸っていたらしい。2012年のゴールデンウィークの真っ最中のことである。

 

同時にそれ以外の準備も進む。販売担当のアオキは書店に「永久保存版!」の大見出しを打った注文書を送り、社長のナカシマも雑誌や書籍の装丁で大忙しの敏腕グラフィックデザイナー・川名潤さんをつかまえカバーデザインを進め、神戸女学院出身の新人であるエグチは目を皿のようにして校閲をやっていた。

 

何を隠そう内田先生は140Bの株主のお一人。その先生の会社初となる単著となれば、気合が入るのも道理である。それに、ウチダ本のファンなら誰もが興味をひかれる自著解説。打席に立つ前からホームランと決まったようなもんである。気分は盛り上がり、まさしく社を挙げての出版の準備は整いつつあった。

 

だが、話はそんなにすんなりとは進まなかった。

 

昨年9月、「カミソリ1枚入らへんくらい」(@江弘毅)にできあがったゲラを持って意気揚々と凱風館へお邪魔した。こちらとしては先生にチェックしてもらえれば、すぐにでも出せるくらいの自信作であった。ところが、すでに抱えているゲラがなんと10本近くもあるという。中には「年」単位で待たせているという背筋の凍りそうなものまで。内田先生の希望もあり、その場ではひとまず「なんとか11月いっぱいには…」ということに落ち着いた。それでもまあ、順番が回って来さえすればあとは早いだろうと高をくくっていた。

 

しかし、2013年が明け、桜の季節になり、それも散った新緑の頃になってもなかなかゲラは返ってこない。一度、書店から注文を取っていることもあり、これはけっこうツラいものがある。ある書店からは、「本の発売に合わせて内田樹フェアをしたいんですが、まだでしょうか?」というお電話を何度もいただいた。このまま“お蔵入り”になったりすることはないだろうが、ともかく「待たなしゃあない」というわけだった。

 

内田先生からいきなりメールが来たのは5月も20日を過ぎた日の夕方だった。「おたずね」という件名に何かと思って開くと、こんな内容である。

こんにちは。内田樹です。

140B本の件ですが、数えてみたら、これまでに書き直した分だけで150000字になっていました。

たぶん頂いたオリジナル原稿の60%くらいしかリタッチしていないのですけれど、ほぼ書き下ろしなので、もうこれくらい書いたら十分かな~と思います。

どうでしょう。ご検討ください。

 

じゅ、150,000字って、400字詰め原稿用紙にして375枚。しかも「ほぼ書き下ろし」ときている。カミソリの立場はどうなるのだ(知らんがな)。とは言え、ようやくの朗報に正直、一安心した。

 

そしてついに6月5日、「内田樹作品自注(決定版)」というファイルが届く。さすがに「決定版」だけあり、ちゃんと「まえがき」も「あとがき」もある。文字数にして155,736字、A4用紙で197枚、出力して厚さを測ると2.2cm(測るなよ)。かくしてめでたく『内田樹による内田樹』は無事世に出ることとなったのである。

 

「まえがき」を読んでわかったのだが、内田先生は最初にゲラを見た時、「なんかインパクトがないなあ」と思ったのだそう。自分の書いた本のことなので、どうしても「自分の知っていること」ばかり話してしまった。それでなかなか捗らなかったのだ、と。ただ、そこで「じゃあ新しく書き下ろそう」となるのが内田先生のすごいところであり、読者に対してほんとうに誠実な方だと思う。

 

あ、そう言えば、内容についてぜんぜん触れていなかった。すみません。むっちゃおもろいのでぜひ読んでください!

株式会社140B  大迫 力(おおさこ ちから)

*「編集者の自腹ワンコイン広告」は各版元の編集者が自腹で500円を払って、自分が担当した本を紹介する「広告」コーナーです。HONZメールマガジンにて先行配信しています。

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