個人的な話だが、昨日、夏休みが終わった。もちろん、ほとんど本も読まずに、旅行に出かけ、遊びほうけていた。休み明けにHONZのレビューの当番であることも、当然、すっかり忘れていた。「仕方が無い。今回は脱力系の本で軽くいくか」と書きたいところだが、お盆明けだろうがなかろうが、選書が軽い感じで変わらないのは気のせいだろうか。これはこれで少し悲しい。
今回取り上げるのは、一年ほど前にレビューした『ぜんぜん酔ってません』の続編である。酒場エッセイと帯には書いてあるが、端的に言うと、飲んで飲んで飲まれて飲んでぶっ倒れるまで飲んで、次の日もまた飲む話が時と場を変え、ひたすら書かれている。酒場にまつわるシンミリした話も収められているが、どちらかというとシンミリではなく、泥酔のあまり、ズボンの股間部周辺をジンワリと濡らしていのではと心配になるエピソードが中心だ。
「よく、まあー、ここまで飲めるのね」と感心してしまうが、内容以上に関心してしまったのが表紙である。
エッセイの第二弾など新鮮味はないので購入は見送りがちである。実際、私も買う気はなかったが(スミマセン)、酔っ払いの記憶の曖昧さを想定したと勘繰りたくなる表紙にヤラれてしまった。前作を買った人間ならば、書店で本書を見かけると、「これ、前に買った本だっけ。何か似ているな」とつい足を止めてしまうデザインだからである。
いずれも文庫で、表紙には、酔っ払ったかわいいオジサンが数人描かれている。タイトルが中央に縦二列にデカデカと位置している。「あれ、これ買ったっけ。あれれ」と思う。通常の人ならば「ああ、前に買った本の続編が出たのね」で片付けてしまうかもしれない。ある意味ひねりが無いデザインなのだが、本書がターゲットにしている読者は、金曜の夜は九分九厘、泥酔しているような人間である。その日、何を飲んだか覚えてない人間に、その日、いかなる狼藉を働いたか覚えていない人間に一年前に読んだ本の表紙を覚えていることを期待することが間違っているのだ。ただ、当然ながら、社会生活を営む程度には記憶もしっかりしているので、足をとめてしまうどころか手に取ってしまうのである。
手に取ると帯に「第二弾」と書いてある。おお、やはり前に買った本とは違うのか。言われてみれば、確かに、タイトルも若干違う気がする。裏表紙には「大好評だった『ぜんぜん酔ってません』から一年」と記載されている。やはり、似ているけど違うのだ。ああ、あの本の第二弾ならば面白い気がする。600円だし。会社近くの居酒屋の「ほろ酔いセット」より安い。と、まんまと買わされてしまうのだ。
そして家に帰った後、世の酔っ払いは愕然とする。比べてみると気付くが、まず、表紙の色が違う。イラストもほとんど同じかと思っていたが、全く違う。オジサンの数は6人で変わらない。ただ、前作ではつり革につかまってふらふらしているおじさんや電車のシートで上を向いてだらしなく座り込んでいるおじさんが描かれていたが、本書では二人組みで肩を組んでいるオジサンや立ち飲み屋の二人連れのオジサンが代わりに登場している。「どーでもいい変化だけど、この2つを同一視していた自分はヤバくないか。ぜんぜん酔ってないどころではないよ、素面でオレ、やばいよ」と頭を抱えるのだが、本書を読み始めると急に安心するのである。著者の酒呑みぶりに。「この著者、相当ヤバいな。まだまだオレも大丈夫です」って。こんなことまで想定したかはしらないが、とにかく、酔っ払いの記憶装置にぎりぎり呼びかける装丁になっているのである。
もちろん、一作目を読んでない人も酒好きならば楽しめるはずだ。パラパラとめっくってみると、魅惑的なタイトルが並ぶ。「七勤無休。五午前様。そのうち一朝帰り」やら「乗り越し泥酔オヤジ、満員電車に闖入」やら「恐るべき一気飲みおじさん列伝」、「昼酒が回り『ウッときてピュッと出た』お話」などなど。下戸には全く魅惑的ではないかもしれないけど、下戸の人はここまで読み進めていないので気にしないのである。
本書は週刊大衆の連載をまとめたものだ。最近、同誌を手にとってないのでホームページを見てみたが、「続美人女医3人爆弾座談会 間違いだらけの『50代女性器とSEX常識』」やら「この夏ドライバーが体験した! 高速道路SA「仰天SEX事件簿」やら、文字通りこちらが仰天してしまいそうな企画が多い。ただ、本書はこうした中でも、前作同様、シモネタはない。女性の存在すらほとんどない。酒とエロを組み合わせないことで、純粋に酔っ払いの生態を描くことに成功している。
夏の休暇でお金を遣っちゃった人も、多いはず。600円で十分楽しめることを考えれば、お酒を好きな人には安い一冊だ。
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