本書は1964年の東京オリンピックの東洋の魔女から、昨年銅メダルを獲得したロンドン五輪まで、全日本女子バレーボールチームの半世紀を追ったスポーツ・ノンフィクション。著者の吉井妙子さんが20年にわたって続けてきた取材のもと、新たに全面書き下ろしで構成した渾身の一冊だ。
具体的なエピソードを紹介すると、ロンドン五輪で28年ぶりのメダル獲得に貢献した、セッターの竹下佳江さんは、大会三日前に左人差し指を骨折していた。彼女は眞鍋政義監督に迷いもせず「指がどうなっていようと私には関係ありません。コートに立ちます」と言い、チームにも事実を知らせずにコートに立った。遡れば、鬼の大松監督にスパルタでしごかれたイメージの強い、東洋の魔女たちが実はお洒落好きで、チーム方針は自主性に富んだ、現在でいう「プレイヤーズファースト」だったという。これまでの常識を超えた、彼女たちの体験ひとつひとつから、体格や能力には決して恵まれないニッポンが、世界と伍してきた理由が明かにされていく。そこには勝負に勝つための独自の工夫や発想が詰まっており、バレーボールやスポーツに興味がない読者でも驚かされるにちがいない。
かくいう担当編集者の私自身も、普段は小説専門の文芸編集者である。今回の『日の丸女子バレー~ニッポンはなぜ強いか』は、小説誌「オール讀物」 の記事のひとつとして、東洋の魔女六人の誌上同窓会が実現したことがきっかけで、企画を書籍の担当者に持ち込んだところ、意外にもゴーサインが出た。その後、過去50年間の新聞・雑誌資料をかき集め、原稿内容や構成を幾度やり取りしたか分からない。真夜中まで小説誌の校了作業をした後に朝までゲラに赤字を入れ、そのままVリーグ最終戦にも行った。表紙の金メダル撮影のため東京五輪キャプテンの河西(現中村)昌枝さんに緊張しながら電話をかけたり……何故こんな面倒を好き好んでと、後悔したことも正直に白状しておく。
もちろん、執筆者の吉井さんのほうが、私の何十倍も苦労をされたはずで「ダンボール三箱分という膨大な資料の前で、女子バレーの歴史を書くのは無理かも」と、何度も頬杖をついたそうだ。しかし、インタビューの中で語られてきた全日本の歴代メンバーたちの言葉――河西さんにはじまり、白井貴子さん、江上由美さん、中田久美さん、大林素子さん、吉原知子さん、竹下佳江さん、木村沙織さんらに連なってきた、日の丸を背負って世界と戦った覚悟を目にすると心が奮い立ったという。まったく、私も同感なのである。
文藝春秋 川田未穂
*「編集者の自腹ワンコイン広告」は各版元の編集者が自腹で500円を払って、自分が担当した本を紹介する「広告」コーナーです。