みなさま、ご存知でしょうか? 猫を愛する人間の中には、心中、ワイルドな猫(ヤマネコやネコ科大型獣)に憧れている者がいるということを。
そういう人たちは、ワイルドライフのドキュメンタリー番組で、草食動物がネコ科大型獣に追いかけられている映像を見て、手に汗を握ってネコ科大型獣を応援してしまうのです。何を隠そう、実はわたしがそれなのです。
ある有名人が(誰だったか忘れてしまいましたが)、「トラ猫が好きな人は、本当はトラを撫でたいのだ」と言ったそうですが、わたしはまさにそれに当てはまります。
そんなわたしですから、『ニューヨーカー』誌の5月6日号に「リビングルーム・レオパード」と題する記事を見つけたときには、一も二もなく読み始めました。
その記事は、ワイルドな容姿を持つペット用の猫を作り出すために、ヤマネコとイエネコを交配し、生まれた子猫を販売しようとする人たちが取り上げられていました。
しかしヤマネコとイエネコの交配には、いろいろと問題がありそうです。まず、半分ワイルドな猫が、本当にペットとしてふさわしいのかという問題。同居猫や人間の子どもを襲って食べる心配はないのが、トイレのしつけはできるのか(さもないとそこら中に排泄物を撒き散らすことになるので)、等々。
問題はそれだけではありません。ヤマネコとイエネコを交配した場合、流産が起こりやすかったり、生まれた子猫に見てすぐわかる奇形や、外見的にはわからない障害(水頭症など)があることも珍しくないようなのです。
『ニューヨーカー』のその記事では、ヤマネコとイエネコを交配させて新種のネコを作ろうとするブリーダーたちの姿や、彼らと動物愛護団体との軋轢などが主なテーマとなっていました。
しかし、実はわたし、猫の品種とかにはあまり興味がないのですよね。これまで飼った猫たちもすべて、拾い猫や貰い猫なのです。そこで、交配の話題はあっさりスルーして、副次的なテーマである「イエネコの由来」に関する話のほうをご紹介したいと思います。
今日のイエネコの由来については、リビアヤマネコから分かれたと昔から言われていましたが、近年のDNA分析の結果からも、その説が裏付けられているようです。イエネコの由来ついては、おおよそ次のようなことがわかっています。
新石器時代、ようやく農耕が始まったころに、リビアヤマネコが人間の集落に入り込みます。ちなみに、2004年にキプロスで見つかった9500年前の墓には、人間と一緒に、猫が埋葬されていたそうです。ペットとして愛されていたのでしょうか?
人間の集落に出入りするようになった猫たちですが、肥沃な三角地帯で穀類に余剰が出て、貯蔵されるようになると、猫はネズミをとってくれる有益な動物となります。そして農耕技術が広まるにつれて、猫もまた世界中に広まってきました。
興味深いのは、ペット界の一方の横綱である犬は、人間の忠実な友となるように、オオカミやジャッカルから、好ましい性質を持つ個体を交配させることで人間が作った動物であるのに対し、他方の横綱である猫は、自分から人間に寄り添ってきたという意味において、自己家畜化self-domesticatedした動物だということです。生物学者はこれを、共生家畜commensal domesticatesと言うそうです。
しかしその自己家畜化は、いったいどのようにして起こったのでしょうか?
DNAの指紋をたどると、今日、すべてのイエネコは、一万二千年ほど前に、何らかの突然変異を起こしたリビアヤマネコに由来するそうです。その突然変異を起こしたリビアネコのことを、「イエネコのイブ」と呼ぶことができるかもしれません(一匹とは限りませんし、メスとも限らないわけですが(^^ゞ)。
で、その突然変異が、ちょっとありえないような変異だったらしいのです。簡単に言うと、リビアヤマネコが人間の子どもを食べなくなったのです!
ヤマネコというのは、非常に獰猛な動物です。たとえばある博物学者は、ヨーロッパ・ヤマネコのことを、「あらゆる生物の中で、もっとも手に負えない生き物」と言ったそうです。つまり、人に懐かない、危険な動物だということです。そしてそのヨーロッパヤマネコとリビアヤマネコとは、DNAレベルではほとんど区別がつかないらしいのです。
いったい、どこにどう変わると、獰猛なヤマネコがかわいいペットになるのでしょうか?
現在、ネコ・ゲノム計画が進みつつあるそうですが、今もって、ヤマネコとイエネコとを隔てる突然変異は突き止められていないそうです。わたしはその突然変異がどのようなものであったのか、そして、イエネコのどんな形質とリンクしているのかを、とても知りたく思います。なんといっても、そのありがたい突然変異のおかげで、イエネコのイブの子孫たちはこうして世界中に広がり、今日わたしたちは、かくも美しく気品ある生き物と一緒に暮らせるようになったのですから!(←猫バカ全開)
猫好きのみなさまも、そうでないみなさまも、ネコ・ゲノム計画の今後に注目ですね!
さてここで、イエネコにも、ドメ顔とワイルド顔があるということ、具体例でお見せいたしましょう。
これは、2009年に15歳で死んだ我が家のメス猫の、在りし日の姿です。目が大きく、両目の間が離れていて、鼻が小さく、耳は大きめで、ドメ顔が好きな人たちにアピールする「愛され顔」です。
そしてこちらは、現在19歳のオス猫の近影です。目は小さく、両目の間が近く、鼻ががっしりとして、耳は比較的小さいワイルド顔です。これで耳先が丸ければ、本格的にワイルドになります。高齢で優しげな姿になりましたが、若い頃は筋肉隆々で、体重は七キロもあり、それはそれは立派な猫でした。ワイルドな容姿と、甘えんぼちゃんな性格とを併せ持つ、すばらしい個体です。
はっ!! いつのまにか「うちの子自慢」になってしまっている!!
たいへん失礼いたしました!
猫自慢はこれっきりにいたしますので、どうかご容赦くださいますよう<(__)>