みうらじゅんという人の知名度というは、いったいどれくらいなんだろう。有名なような気もするし、そうでないような気もする。何をする人かといわても、むずかしいところがある。Wikipediaを見ても、『職業については、エッセイスト、小説家、ミュージシャン、評論家、ラジオDJ、編集長、ライター、解説者など幅広い分野で活動しており、公表している職業は「イラストレーターなど」』とあるくらいだし。
『ゆるキャラ』や『マイブーム』という、いまや一般名詞と認知されるようになった言葉が、みうらじゅんの造語であるというから、そのセンスは尋常ではない。もうひとつ、いまいちひろまっていないが、もらっても少しもうれしくない観光地の土産物をさす『いやげもの』という言葉も、みうらの手によるものである。
今春は大阪で『国宝みうらじゅんのいやげもの展』というのが開催され、『国宝』という言葉に惑わされた老人などを含めて何万人もつめかけた。ちょっと詐欺みたいなであるが、みうらじゅんに言わせると、たいして問題がなかったそうで、これからは『国宝ブーム』(冠詞みたいに『国宝』という言葉をくっつけるブーム)がくるのではないかと豪語している。さすが、こわいものなしである。
京都生まれのみうらが、ひとり忍者ごっこに興じ、空海になりたかったという子供時代から、高校を卒業して京都を出るまでの思い出の地を巡る。という、観光には何の役にもたたない、一見したらガイドブックのように見える本、が、この本だ。もちろん、タイトルは、あの大ヒット曲、ほんまにベンチャーズがこんなおとなしい曲を作ったのかという、渚ゆうこの『京都慕情』からとられている。読後何週間にもなるが、私の頭の中では『♪苦しめないでぇ、あぁ責めないでぇ』がリフレインし続けているほど影響力絶大の本だ。
しかし、この本、おもろいと思う人と思わない人、はっきり分かれるだろう。きっと、その試金石として、まえがきの前にトップページが作られている。その見開きの右側に『京都慕情』のレコードジャケット、左側に、みうらじゅん手書きの歌詞。問題は、そのキャプション。これを見て、そのセンスに笑いこけるか、なんやしょうもないと思うか、が、この本を楽しめるかどうかの分かれ道。
北野天満宮、東寺、仁和寺、哲学の道といった観光地にまぎれて、繁華街、大丸、大将軍(生まれ育った町)、東山高校(出身校)といった、なんやねんそれは、という『巡礼地』が紹介されていく。さすがは、みうらじゅん。有名観光地と、どうでもいい思い出の地を差別したりしない。あくまでも、主観的なつかしさだけで話が進められていく。
たとえば無名の巡礼地『東映撮影所/御室小学校』。人気TV番組であった『仮面の忍者赤影』に子役として出演していた『青影』こと金子吉延少年が、隣町の御室小学校に超してきたと聞いたみうら少年は、一目でいいから青影を見ようと、友人と二人、学校をさぼって校門前で待ち伏せをする。首尾よく放課後の青影を発見できたのであるが、さすがは忍者、自転車に乗って颯爽と校門から出ていってしまった。自転車に乗れないみうら少年と友達は走って追いかけたが見失ってしまったという。なんとも子供らしい、ほのぼのとしたエピソード。
昨年あった『ウメサオタダオ展』を見に行った時、みうらじゅんと同じく京都が生んだ天才である知の巨人・梅棹忠夫の、子供時代からの膨大な資料と記録に圧倒された。みうらじゅんの記録癖、収集癖もそれに匹敵するかもしれない。紹介されているスクラップや写真帳がえらくしぶいのである。なかでも一級の資料は『DX東寺』の特別割引券である。『DX東寺』といっても、東寺の秘宝がデラックスに展示される特別展覧会のことなどではない。いまはめっきり少なくなってしまったストリップ劇場の名門中の名門なのである。“高校時代に手に入れた割引券は今も大切にスクラップ帳に貼られてあった”という一枚、梅棹忠夫の資料には絶対にない貴重なものだ。
少し前に『変な協会』という本のレビューをしたのであるが、みうらじゅんも安齋肇とともに『勝手に観光協会』なる協会を設立していることがわかった。やっぱりさすがである。『頼まれもしないのに、勝手に各地を視察、勝手に観光ポスターを制作、勝手に観光ポスターを制作、勝手にご当地マスコットを考案、勝手にご当地ソングを制作&旅館録音』』する『大きなお世話ユニット』らしい。このHPは見応えがあるのでぜひごらんいただきたい。ちなみに京都のご当地ソングは『おはよう舞妓さん』。しかし、全都道府県に対してこんなことするとは…
類は友を呼ぶというのだろうか、同じく京都の生まれで『漫画雑誌ガロ』出身である、ひさうちみちお氏との巻末対談もおもろすぎる。
みうら 京都は包茎がにあいますなあ。ちょっと上品に皮かむってはる感じ。
ひさうち 大阪はズルムケですねえ……。
みうら 内にこもった何かが京都にはおますなあ。
これほど下品に京都と大阪の違いを見事にいいあらわす会話がありえるだろうか。
同世代ということもあって、この本を読みながら、同じような感じやったなぁと思い出すことがたくさんあった。みうらじゅんほど一次資料を保存してなくとも、『マイ○○慕情』と題して、高校を出るまでの思い出の地を巡礼するっちゅうのは、けっこうおもろいような気がする。ひょっとしたらブームになるかもしれん。けど、自分のずるむけた慕情を見るのはちょっと恥ずかしすぎて、皮かむりたくなるかもしれんなぁ。
ブーム来るか??? いやげ物。
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みうらじゅんにならって親孝行を趣味にしようと思ったけれど、三週間で挫折…
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和歌山県編、それも、ディレクターズカット、って妙にそそられるやないの…