「大彗星」とは、昨年の9月12日に発見された「アイソン彗星」のことだ。今年の11月下旬に太陽に大接近し、最大でマイナス13等級という満月並みの明るさになると予想されている。これほど明るくなる彗星は数十年に一度しかないらしく、著者の一人は「この彗星を凌ぐ大彗星は、私が生きている間には、二度と現れないだろう」と予想する。私より年下の人だ。「神様がくれた最高の贈り物、世紀の大彗星」。ここまで言われたら、見たいと思うのが人情である。
本書は国立天文台 副台長の渡部さんと月刊『星ナビ』で『吉田誠一の視天』を連載していた吉田さんの共著だ。本書は、そもそも彗星とは何ぞや、とか、どこから来るの、とか、「光度」ってなに?、などという童心に帰った質問にも優しく答えつつ進行し、私のような、大彗星は見たいが右も左もわからない読者には最適だ。また、彗星の歴史についても書かれており、中国で紀元前2315年、エジプトで紀元前2192年という最古の彗星の記録や、カエサル暗殺の4ヵ月後に現れた彗星の話などが大変おもしろい。『アングロサクソン年代記』に記されているイングランド王継承争いの時期に現れた彗星は、70mにも及ぶ「バイユーのタペストリー」に描かれており、今では1066年のハレー彗星であることがわかっている。
[Tapestry of bayeux, wikipedia commons]
日本に関して言えば、彗星が最初に記録されているのは『日本書記』らしい。また、黒船が来航した際の錦絵に「グレート・セプテンバー・コメット」が描かれているというのも興味深い。1882年、南半球の船乗りたちによって発見され、世界中で見られていた彗星だそうだ。国立天文台 貴重資料展示室でマイクロフィルムが閲覧できる。
本の後半では、いよいよ「アイソン彗星」を観るための情報が提供される。彗星好きの著者らしく、始めに「記憶に残る6つの彗星」について「あの彗星は素晴らしかった」と写真つきで詳述し、光度や尾などの観測ポイントを述べた後、「一生に一度の大彗星、アイソン彗星がやってくる!」と本題に入る。観測可能な期間は10月から来年の1月に及び、最も太陽に接近するのは11月29日だ。当日は太陽に近すぎて本体を観測できないが、長い尾は見られるかもしれない。11月17日から24日くらいまでの、スピカや水星、土星をかすめて飛ぶ時期も楽しそうだ。登場するのは明け方の東の空、地平線の近くだ。どこに見に行こうか、今から考え始めている。
著者の吉田さんのサイト
美しい早送り動画で見る「パンスターズ彗星」3選 (wired.jp)
今年3月に観測されたパンスターズ彗星を低速度撮影したwired.jpの記事。アイソン彗星の観測に、タイムラプス機能つき一眼を持って行きたい気持ちになる。
楽しそうなアプリが多数紹介されているサイト。
アイソン彗星情報も詳細です
吉田さんが主宰する新天体捜索プロジェクト。多くの変光星を発見している。『オープンサイエンス革命』(HONZレビューはこちら)で紹介されているGalaxy Zoo projectを思い出した。
NASA Asteroid Initiative
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ejIXRFzXgsg[/youtube]
NASAが2014年度予算申請した「小惑星捕獲計画」のビデオ。月の周回軌道に持ってくるそうだ。NASAのサイトはこちら。Wikipediaサイトはこちら。
250年前、ハレーの予言に基づいて金星の太陽面通過を追った科学者たちの世界的プロジェクト。