HONZの読者にこの本を紹介するのは「釈迦に説法、孔子に悟道」のような気がしている。本はいますぐ役に立たないものの宝庫だとか、本屋にいくのはムダなものに会いにいくというスタンスなど、この本で述べられていることは、HONZの考え方にとても近く、代表の成毛眞が『本は10冊同時に読め!』などで言っていることにも似ている。そう思っていたら、併読のススメという部分で成毛眞の名前も登場していた。さもありなん。
では、なぜわざわざ紹介するのか?それは書店員の立場からみて、この本の内容にものすごく共感したからだ。また本屋への愛にあふれていることも紹介したい要因の一つである。本屋ってのはとってもおもしろいところなんですよ?
「本屋というのは元祖セレクトショップ」や、「本との出会いは一期一会」、「棚はガウディの建築のようなもの」というのを読んだときには、そう、そう!そうなんだよ!よくわかっていらっしゃる!とつい、口にしてしまった。 「このことをわかっていない人が、世の中には多すぎる!」と声を大にして言いたい。
本屋で働いていると「1か月くらい前に、この辺りにおいてあった本なんだけど」とか「きのう他のお店にいったら、たくさん置いてあったんだけど」というような問い合わせをよく受ける。置いてあったということだけを覚えていて、タイトルも、著者も、場合によっては何の本だったのかも覚えていないというケースもある。なんらかの情報を引き出して、その本を推察するのだが、何の本だかわからないものばかりはさすがにお手上げである。そのあたりのことは『書店員あるある』に詳しい。以前にHONZでも新井がレビューをしている。
新刊に限っていえば、1か月前においてあった本が、同じ場所においてあることはほとんどない。だから、本というのは出会ったときがが旬、すなわち買いどきなのだ。あとで買おうと思っても、次に来たときに、その本がまだあるという保証はどこにもない。そう。本というのは一期一会なのである。だから読む読まないは別にして、とりあえず気になったものは買っておくべきだと著者も言っている。この考え方には自分も大賛成だ。ただ、これをやると積読がものすごいことになることだけは事前にお伝えしておく。
本屋というのはセレクトショップである。これもあまり知られていない。いくら大きな店であっても、すべての本がおいてあるわけではない。店ごとに品揃えはまったく違うのだ。さらに本屋は1日としておなじ状態が存在しない。まさにガウディの建築のように、毎日少しずつ棚が入れ替わっていく。その変化を楽しむためには、定期的に本屋に足を運ぶことをオススメする。定期的に本屋へいくと、店内を俯瞰してみるだけで、時代の空気や、いまというものを知ることができるからだ。これはネット書店では体感できない本屋ならではのメリットである。
さらに本屋の楽しみといえば、想定外の出会いがあるということだろう。買うつもりのなかった本を買わされてしまう。そんな本屋がいい本屋だと著者はいっている。その例として往来堂書店や東京堂書店などが紹介されている。他にもたくさんの本屋が紹介されていて、巻末にリストが載っているので、それを参考に本屋を回るのもおもしろいだろう。
本屋というのは世界と繋がる場所である。一見役に立たないものが、ふとしたきっかけでなにかの役に立つことがあるかもしれない。役に立たなくとも人間というのは「無駄な知識を得ることで快感を覚える唯一の生物」である。読書は旅だ。そして本は寄り道のツールである。旅というのは寄り道が多いほうがおもしろいものだ。
“さぁ書を捨てず、町に出よう、行くのはもちろん、本屋さん。”