『新・ローマ帝国衰亡史』新しい仮説の立て方

2013年6月5日 印刷向け表示
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新・ローマ帝国衰亡史 (岩波新書)

作者:南川 高志
出版社:岩波書店
発売日:2013-05-22
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仮説力を磨きたい人にはおススメの本。

いわゆる一流の人間とは、真理に近い仮説を立て、それをいち早く検証・実践した人間と言われている。確かにこのことは学問・政治・ビジネスなどあらゆる分野において普遍的であり、仮説力ある人が世の中をリードしていると言っても過言ではない、と言うと少し言い過ぎか。いずれにせよ、一朝一夕に仮説力を磨くのは難しく、よほどの才能がない限り、独学で徐々に学んでいくしかないのが現実である。

仮説力を磨くのにおススメするのは読書を通して仮説力ある人物の仮説・検証プロセスをフォローしてみること。HONZ代表である成毛眞のオールタイムベスト10で紹介されている本は、仮説力を鍛えてくれる良書が多く一番のおススメリストであるが、本書も京都大学教授が変わった仮説をたてている本でおススメだ。

特に本書を通して学べるのは、新しい仮説の立て方。物事を少し変わった視点から考察することで定説を覆すような新たな仮説をつくる、著者が本書を通して実践していることである。ローマ帝国の衰亡史という歴史研究として確立されている分野に於いて、イタリアやローマ市といった帝国の「中核」地域から論じるのではなく、これまであまり注視されていなかった辺境地に光をあてることで、新たなローマ帝国衰亡論(新仮説)を導き出しているのだ。

いわゆるローマ帝国衰亡史の定説とは、4世紀末のゲルマン民族の大移動という蛮族侵入が衰退しているローマ帝国に止めを刺したというもの。しかし本書は、衰亡の根本的な原因は、差別と排除の論理に基づく偏狭な保守イデオロギーの台頭であるとし、ローマ帝国は外敵の出現による崩壊ではなく、内的要因によって自壊したと新仮説をたてているのだ。

あまり内容を書きすぎるとネタバレになってしまうので、ここでは著者自身が岩波書店のホームページで語っている本書のユニークさを引用するに留めておく。

帝国が衰亡していく過程はロマンを誘うのか、18世紀に書かれたエドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』が好んで読まれています。今回私は、ギボンが大著を費やした同じテーマを、新書1冊で書いてみました。我ながら大胆なことです。執筆にあたっては、学界の最新の成果を取り込み、また「ローマ帝国とは何か」ということについて私の独自の解釈に拠ったので、ギボンの衰亡史とはすっかり異なるものになりました。たとえば、ローマは地中海ではなく「大河と森」の帝国であった、最盛期のローマ帝国には「国境線」はなかった、古代に「ゲルマン人」はいなかった、あの巨大な帝国はわずか30年で崩壊したなどと聞くと、驚かれる方もあるのではないでしょうか。

著者が定説とは違った視点を持てたのは、イタリアや地中海にて起こる事象だけでなく、辺境地であるブリテン島(現在の英国)、ガリア地域(現在のフランス・ドイツなど)での事象も研究したからこそのようだ。一旦、主流からはずれ、新しい視点から物事の本質を捉える、ぜひビジネスの分野でも実践してみたい方法である。

本書の最大のウリは、栄えていた国が滅びるとはどういうことか、といういかにも岩波新書らしい壮大なテーマに挑んでいることであるが、本書をただの教養書で終わらせてしまうのはもったいない。読者には、教養書としての本書を楽しみつつ、併せて、一流の学者はこうやって新しい仮説をたてるのかーと感心しながら240ページを一気に読み切ってもらいたい。

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ローマ帝国衰亡論の本家本元といいえばこちら。チャーチルやアダム・スミスなどの愛読書だ。

図説 ローマ帝国衰亡史

作者:エドワード ギボン
出版社:東京書籍
発売日:2004-07
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古代ローマ帝国がいかに領土を拡大し、他民族を纏めあげていったかを知りたい人は『古代ローマ帝国 1万5000キロの旅』を。過去のレビューはこちら

古代ローマ1万5000キロの旅

作者:アルベルト・アンジェラ
出版社:河出書房新社
発売日:2013-02-20
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文明が滅びるのは人々の脳の思考停止が原因、とこれまた変わった仮説をたてている本『文明はなぜ崩壊するのか』。過去のレビューはこちら

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作者:レベッカ コスタ
出版社:原書房
発売日:2012-03-09
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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