ブラジル67の秘密 『ブラジルの流儀』 和田昌親

2011年3月21日 印刷向け表示
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★★★★☆

ブラジル好きの人はもちろん、沈んだ気分を吹き飛ばしてクスッと笑いたい人におススメ

佐々木俊尚氏によると、外食に行っただけで、「不謹慎だ」などと罵られるらしい(Togetter)。近所のレストランに潰れてもらっては困るので、私もせっせと外食にでかけたが、西麻布近辺のレストランはこの連休中は大抵がらがら。被災地とは比べられるはずもないが、東京にも重たい空気が流れている。TVを消して、この本を読んでリラックスして欲しい。

ブラジルの流儀―なぜ「21世紀の主役」なのか (中公新書) ブラジルの流儀―なぜ「21世紀の主役」なのか (中公新書)
(2011/02)
和田 昌親

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ブラジルに駐在経験のある日本人の多くがそのファンになるようだが、著者もその例に漏れない。本書は「なぜブラジルはXXなのか」という形式で、67の『ブラジルの流儀』を紹介しているのだが、全ての流儀にブラジルへの愛情が満ちている。著者は元日経のサンパウロ特派員だが、本書の白眉は第1章「社会・生活の話」だ。この章を読めばきっとあなたも笑顔になり、ブラジルに行きたくなる。ちょっと恐い話もあるけど。

ブラジルの人々は優しく、日々の生活の中でそのありがたみを実感することが多いそうなのだが、そこは地球の反対側、日本人には想像もつかないような流儀が存在する。ブラジルに赴任する日本人はさっそく税関で1つ目の流儀に対処しなければならない。外国製品の持込に厳しいこの国では、持ち込み品には何かとイチャモンをつけられるし、まともに関税をかけられれば、数千ドル単位のお金が吹き飛ぶ。そこで、デスパシャンテと呼ばれる「役所が認めた便利屋さん」の出番だ。このデスパシャンテが具体的に役所でどのような交渉をしているかは謎のようだが、普段から役所に出入りして役所の人間とアミーゴになることで、あらゆる無理難題を叶えてくれる。当然一定の手数料は必要だが、労働ビザの取得、車検申請はもちろん、場合によってはお金で運転免許証を買ってきてくれるとか、くれないとか。地元の人も彼らの”潤滑油”としての存在意義を認めている。

心優しいブラジル人だが、時間やお金に対するルーズさ、治安の悪さには注意が必要だ。パーティ開始時間をブラジル人にだけ1時間早めに伝えておいても日本人の方が早くやってくるし、レジのお釣りは”だいたいの金額”で返される。お金が返ってくればよいほうで、レジにおいてあるお菓子がおつり代わりのことさえある。「本当にそんなことあんの??」と驚いていると、シアトル生まれで、以前バイヤーとして世界中を飛び回っていた妻から、「え、そんなのよくあるよ」と言われてしまったので、どちらかというと「1円単位できっちり間違いなくお釣りを返す」というのは日本独自の流儀のようだ。

ブラジルの治安の悪さ、ファベーラ(貧民)の状況は『シティ・オブ・ゴッド』を観ればよくわかるし、やっぱりブラジルでは赤信号は「注意して進め」のようだ。「ブラジルではどこが安全なんですか?」という質問はやめておこう。

これでは何だか面倒くさいだけの国のようだが、本書にはそれを補って余りあるブラジルの魅力が書かれているので、是非ご自身で確かめて欲しい。本書を読むと、本当に著者はブラジルが好きなんだな、と感じる。地球の反対側の人間を魅了してやまない要素がブラジルにはあるようだ。今後『日本の流儀』を書いてくれる人はどのくらいいるだろうか。甚大な被害を受けた今回の震災後の日本人の姿を好意的に伝える外国メディアが多数あった(3/13日経)。一方、日本、関東を脱出する外国人の姿も多数伝えられている(3/18読売)。日本語ができないであろう彼らを責める気には全くならないし、日本人にも脱出している人間は沢山いる。それで不安が和らぐならそうすればよい。

混乱が収まり、復興への道を歩み始めるとき彼らは戻って来てくれるだろうか。戻ってきて、「日本の流儀」を書きたいと思ってくれるだろうか。そこに書かれるであろう流儀に、外食に行ったり、コンサートを開催するだけで「不謹慎だ!」と罵るような不寛容さは必要ない。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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