採点:★★★★☆
「私は有機野菜食べてるから長生きできる!」って思ってる人にはおススメ。
副題が示すとおり、食に関する「気分のエコ」が間違っているだけでなく、いかに害を及ぼすかをデータを基に明らかにしていく。巷に溢れる「地産地消」「有機農業」などのキーワードを軸に、これまでとこれからの農業・食料について概観する一冊。
食の安全と環境-「気分のエコ」にはだまされない (シリーズ 地球と人間の環境を考える11) (2010/04/20) 松永 和紀 |
■あらすじ
「気分のエコ」に対抗するために、学術研究によって得られた様々なデータを基に現在の農業と食について解説している。地産地消は、その輸送コストだけを考えて「環境に優しい」とはいえないこと。これまでの功罪を振り返りながら、農薬が地球の人口を養うには欠かせないこと。さらには有機農業や遺伝子組み換え食品について、「気分」ではなく「科学的」視点でメスを入れる。最終章には、我々消費者の意識改革を求める著者の思いが綴られている。
■感想
「食」に関する広い範囲を現在注目されているトピックを中心にカバーしており、私のように殆ど知識の無い者にも取っ付き易かった。なんとなく「うさんくさいなぁ」と思っていたことが、しっかりと検証されている。現代農業入門書によろしいかと。
小麦の一例を挙げて見ても、世の中に出回っている言説と真実の乖離が如何に大きいかがよく分かる。
「国産の小麦を食べたほうが、米国産のものより、移動距離が少ない分化石燃料の消費が少ないし、身体に良いよね」
なんて思ってる人は、一から十まで間違っているようだ。
まず、化石燃料の消費量は当然移動距離だけを考えれば米国産の方が大量に必要だが、国内産の小麦は水分含有量が多く乾燥させなければカビ毒に汚染される危険性がある。そのため、国産小麦は大量の化石燃料を使用して乾燥させなければならないのだ。トータルでのCO2排出量はどっこどっこい。
さらに、厚生労働省、農水省の調査から国産小麦の方が輸入小麦よりもカビ毒汚染が深刻であることが明らかになっている。
「気分」に流されてはいけないのだ。
その他農薬や遺伝子組み換え食品に関しても同様に、世の中の通説をデータで検証している。大事なのはものごとの一面だけを切り出すのではなく、システム全体へ目を向けること、科学的検証を行うことなのだ。学生時代に化学をかじったものとしては、国土が狭小で高温多湿な日本にこそ、農薬の分野でイノベーションを起こしてほしいものだ。遺伝子組み換え食品での日本の出遅れを本書で知ると、そんな希望も消えてしまいそうだが・・・
著者は消費者のマインド変化の必要性を説いているが、これは無駄だろう。「心持を変える」ことでは何も変わらないからだ。大前研一氏は以下の3つしか人間の変わる方法は無いといっている。
・時間の使い方を変える
・住む場所を変える
・付き合う人間を変える
どうすれば日本人の食習慣を変えられるだろうか?そもそも変えることはできるのか?
農業に絡んでいるヘンテコリンな補助を辞めて、市場に競争させれば、自ずと環境負荷の低い食品が安くなるんじゃないの。