採点:★★★☆☆
日本の金融工学「史」に興味がある人におススメ。理系研究と世の中の繋がりも考えさせる
日本の金融工学における「元」横綱である著者による、日本における金融工学の担い手とその役割を振り返りながら、サブプライムローンに端を発する今回の金融危機の原因を探る一冊。本書を読んでも金融工学が具体的にどのような理論の元に成り立っているかは分からないが、数式が苦手な人でもその概観を掴めるようになっている。
自分のことを書くのは難しいようで、同級生を主人公にしたスプートニクの落とし子たちの方が面白かったかな。(書評)
「金融工学」は何をしてきたのか(日経プレミアシリーズ) (2009/10/09) 今野 浩 |
■あらすじ
吹き荒れる金融工学バッシングに対して、日本の「元」第一人者として反論する第一章から本書は始まる。現在悪玉にされている金融工学の成り立ちをその担い手の姿とともに振り返る。あくまでも、その工学の理論的部分を担った研究者・技術者の視点から、ウォール街の生態やCDSの中身、そして今後の金融工学についてまとめられている。
■感想
スプートニクの落とし子たちにもあるが、著者は自身が一流のエンジニアになれないことを学生時代から悟っていた。その著者が選んだ金融工学の世界には二種類の人間がいる。一方は経済学からこの世界に入ってきたもの、もう一方は統計・数学の世界から入ってきたものである。こうのようが学際分野はどちらからも下に見られることが多いが、社会に与えるインパクトの大きさからかなりの質・量の人材が殺到したようだ。
著者は徹底したエンジニア視点から「金融工学自体は悪くない、悪いのは強欲なMBAたちだ」と主張するが、本当にそうだろうか。今回の経済危機の犯人を誰かに押し付けあっているように見えてしまう。
エンジニアにも責任の一端があると考えている。
と言いながらも、以下のように続けている。
今回の大破局を生み出したのは、ウォール街・政府・MBA複合体である。彼ら一級戦犯は絞首刑になっても仕方がない。ところが彼らは巨額のボーナスと退職金を手に入れ、「向う岸」に逃げ切った。
(中略)
一方、下働きをさせられたエンジニアはどうなったか。「向う岸」に渡った人は、数えるほどだろう。裏方を務める彼らは世間で言われているような高額報酬を手にすることはできなかったからである。第二次世界大戦のときの日本兵と同様、まことに損な役回りを演じさせられたものである。
本当に??エンジニアたちは、ウォール街のMBA達はもちろん、その顧客たちがその中身を理解できないことを知らなかったの?日本兵と決定的に違うのは、自分たちで高給のクォンツになりたくてなった点だろうか。
一時盛んに行われていた「チャート分析」の研究を見なくなった理由を「上手くいかなかったからだ!」と決め付けることができないのがこの分野の難しいところ。何故なら本当に上手くいく分析手法をわざわざ公開するメリットがないからだ。その可能性はほとんどないのだろうが、サブプライムの崩壊を2005年に見抜いて大儲けした人間がいるように、現在大儲けの種を仕込んでいる人間たちがいるのかもしれない。