人を裁くとはどういうことか 『死刑絶対肯定論』 美達大和

2010年8月6日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

死刑、裁判員制度に興味のある人におススメ。読んだあと「うーん」と唸ってしまう本

かなり衝撃的だった前作人を殺すとはどういうことかに続く、天才殺人者である著者による、殺人者がどのような人間か、死刑判決を出すとはどういうことかについて述べた本。

死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張 (新潮新書) 死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張 (新潮新書)
(2010/07)
美達 大和

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■あらすじ

著者は、少年時代には突出したIQで「神童」と言われ、月に100~200冊を読みこなす敏腕金融マンとなり、自分のルールに則って、冷静に、計画的に人を2人殺した。その罪で無期懲役の判決を下された著者が、罪と罰のラスコーリ二コフ等を例に出しながら自らの人生を、罪及び贖罪について難解な言葉を使いながら一石ぶった前作から、本作は裁判員になるであろう我々に死刑の重要性をストレートに訴える。無期懲役囚から我々へ向けた強烈なメッセージ。

■感想

「死刑」には中学時代から興味があった。夏休みの読書感想文で死刑に関する本について書いて章を貰った記憶がある。アマゾンで調べたが、どの本か思い出せないが、その本の結末は、「死刑が必要かどうか分からない、一生考えていかなければ」と言ったものだった気がする。しかし、本書の結論はタイトルの通り明確である。死刑は絶対に必要であり、死刑こそが人間的な罰なのだと、著者は主張する。

「冤罪だったらどうするのだ?」と言う人は、20年の懲役だったら冤罪でも良いと思っているのだろうか。

「仮釈放なしの終身刑でいいじゃないか」と言う人は、それ以上どれだけの悪事を働いても、善行をおこなっても自身の状況が改善も悪化もしない犯罪者を監視することができると思っているのだろうか。

著者は犯罪者と加害者の非対称性に着目するが、XXX人以上殺さなければ死刑にならないというのは、あまりに対象性を欠いている。「目には目を」で有名なハムラビ法典は、決して残虐なものではなく、「目を取られたら目を取るだけにして、命まで取ってはいけない」と規定した復讐の連鎖を止めるためのものだ。自分の大切な人が、金銭や性欲目的のために殺されて、その犯人が生きていると知って復讐を考えない人間はいないだろう。なぜ君は絶望と闘えたのかの本村さんに復讐をさせてはいけないのだ。その一点を取っても死刑の必要性は磐石なものだと感じる。

前作に続いて、塀の中の懲りない人々の話が沢山出てくるが、相変わらず顎外れっぱなしの事実が盛りだくさんである。前作では、何度も犯罪を繰り返すものの知能の低さ、社会的能力の低さがピックアップされていたが、本作ではその時間感覚にも焦点が当てられており、興味深い。

また、さらっと粗食と長寿の関係性に言及してみたり、取調べの心理学を引用してみたりと著者の博覧強記っぷりには頭が下がる。著者の存在が強すぎて、著者の主張以外にも興味が向いてしまうが、前作にはもっと著者自身を掘り下げた記述があるので、本作で興味を持った方は是非。

■参考書籍

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白 人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白
(2009/01)
美達 大和

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なぜ君は絶望と闘えたのか なぜ君は絶望と闘えたのか
(2008/07/16)
門田 隆将

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