採点:★★★★★
一流の軍人を知る一冊。ビジネスはもちろん生きるための知恵を手に入れたい人におススメ。
成毛さんの実践多読術(書評)で紹介してあったが、残念ながら絶版。久しぶりにアマゾンマーケットプレイスで購入したが、中古でもボロボロでもよいから手に入れることをおススメ。
一昔前のマイクロソフトの面接では「富士山を動かすのにいくらかかる?」というフェルミ推定が出されていたらしいが、著者ならなんなく答えてしまうだろう。なぜなら著者は、湾岸戦争で何万の兵隊、何億食分の食料、何千台の戦車をアメリカから地球の裏側に届けた、兵站のプロフェッショナルだから。
山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略 (1992/11) W.G. パゴニス |
ロジスティクスに対して地味なイメージを持っている人は多いだろう。希望就職先ランキングにも運送会社が上位にランクインした話は聞いたことがない(エアラインは別枠だろう)が、本書を読めばその業界に興味を持つ人間は多数いるはず。俺が佐川やヤマトの人事担当者だったら本書を新入社員と内定者に配る。
本書のあらすじは監訳者である佐々淳行氏が上手にまとめているので、以下では気になったポイントを羅列する。
佐々氏については賛否両論あろうが、このあとがきは非常に良く出来ている。本書の情報量は膨大なので、あとがきを読んだ後に本文を読んだほうが、全体を掴みやすいと思う。
「歴史に学ぶ」とはよく言ったものだが、それを実践することは難しい。「歴史に学ぼう」とし過ぎると、自らを神の視点へと導き、過去を断罪してしまう可能性も高まる。しかし、著書は正に歴史から学んでいる。アレキサンダー大王に始まり、南北戦争やベトナム戦争のあらゆる場面を参考にしながら、柔軟に現実に向き合う。火砲をはしけに渡す方法が思いつかなければ、軍の本部に電話して南北戦争時を参考にするのだ。
とかく批判の的になり易い「官僚制」だが、骨の髄まで軍人である著者はそのメリットを強調する。
来る日も来る日も分析していた。そして、まったく予期せぬ結論に達した。すなわち、官僚制は悪ではないのである。きっかけは明白な事実であった。巨大で複雑な組織によってのみ達成できる種類の仕事がある。家族経営では、大陸横断鉄道は建設できないし、月へ飛行することもパトリオット・ミサイルを開発することも出来ない。複雑な組織を動かすにはそれなりの機構が必要で、それがつまり官僚制である。
悪いのはシステムではなく、人なのだろうか。日本の官僚制はそのシステムが不十分なのだろう。人の入れ替わりの仕組みを組み込めば、日本の官僚制はまだまだ機能するのかもしれない。このあたりは城繁幸氏もブログで言及している(城氏のブログ)。
どんな社会人も新入社員のときには「なんでおじさんたちはこんなに無駄な会議をしているんだろう?」という疑問に思っていても、3年も経てば「まぁそんなもんだ」と思うようになる。しかし、効率のプロフェッショナルである著者はそのようなムダは放ってはおけない。「ブレーンストーミング」の効用には非常に懐疑的なので、以下の意見はしっかり腹に落ちる。
私はブレーンストーミングには懐疑的である。たいていの場合、まじめな人がただ集まって気ままな意見を吐き出しているにすぎないように思えるのだ。言葉の遊びも混乱のもとだ-ストーム(嵐)の後はビジョン(視界)も良好になるというのか。会議は明快な目標を定め、統制の取れた形で進めなければならないと思う。
交渉前の準備の周到さもたいしたもんだ。徹底的に相手の立場に立って、どのような振るまいをすべきか・すべきでないかをしっかりと頭に叩き込むことは非常に重要だ。交渉と言うのは吉田豪のように周到に準備してから望むべきものなのだ。著者の言葉の節々からは、相手(≒イスラム諸国)を理解しようと言う姿勢が垣間見える。「作戦中の米軍による故意の犯罪は一件もなかった」そうだが、アフガン・イラク戦争の現状を著者はどのように見ているのだろうか。パパブッシュから息子ブッシュへの8年間に米軍はその質を大きく低下させたらしい。
このように、不確実性の高い戦場で、正に命がけで意思決定を行っている軍の司令官レベルは大企業で引っ張りだこらしい(こちらが情報源)。俺がCEOでもパゴニスは是非雇いたい。大企業の出世コースを着々と歩んで行くだけは意思決定の場面に立ち会う機会は極端に少ないだろう。しかし、トップの仕事は意思決定しかないのだ。
不況だ不況だ言われる日本ですら2桁成長を続ける程にオンラインショッピングが盛況だと言うことは、国内でもロジスティクス業界はしばらく成長するだろうか?アマゾンの注文した本が当日届くのはなかなか驚異的だ。この業界では国内企業が頑張っている。もっともっとロジスティクスについて知りたくさせる一冊だった。