日本人は競争嫌い? 『競争と公平感』

2010年5月1日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

サラリーマンにはお薦め。床屋政談にも使えるネタがいっぱい。

俺は負けず嫌いだ。小さい頃からそうだ。自分でゲームのルールを創るのが好きだった。もちろん、自分が勝てるルールを。自分が負けるゲームは絶対にやらなかった村上世彰氏の気持ちがちょっとだけ分かる。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書) 競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)
(2010/03)
大竹 文雄

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本書はどのような「競争」が良い結果をもたらすのか?どのような「競争」であれば、人々は、特に日本人は、その「競争」を「公平」であると感じるのか?といった問いに、様々な学術論文を引用しながら答えていく。小泉・竹中コンビの「市場原理主義」が日本の格差を拡大したと思ってる人は必読。

「どのような競争を公平と感じるか」といったような、人間の性向を明らかにする類の実験において、その結果は人間の直感とは大きく異なることが多い。やはり、人間の脳は直接的・短絡的な因果関係を推測するために最適化されているのだろう。(「つぎはぎだらけの脳と心」にこんなことが書いてあったような気がするが、出典を忘れた)

本書ではもちろん、現在の経済問題についても様々な言及が見られる。最近の貧困率上昇の原因を以下のように分かり易く整理していたりもする。

�不況(これは原因というにはいささか結果と直結しすぎている気もする)

�技術革新の影響:時代遅れの仕事やってる人は失業しますよ

�グローバル化:単純作業はインド人・中国人が安くやりますよ

�高齢化:定年したらそりゃー当然、インフローは減りますよ

�離婚率の上昇:日本ではまだまだ子育てしてる母親は仕事し難いですよ

日本企業の時価総額や売り上げランキングの上位を創業50年以上の会社が占めてるんだから、日本で�が進んでないことは明らか。�に対して「ユニクロ栄えて国滅ぶ」とか寝ぼけたこと言ってるひともいたが、著者は以下のようにばっさり切り捨てる。

日本がグローバル化をやめて、そうした国々から農作物や製品を買わなくなると、日本も貧しくなるが、もともと貧しかった国はさらに貧しくなる。世界の貧困を解決するためには、貿易を拡大していくことが重要である。日本の格差や貧困問題が貿易によって拡大するという側面があっても、それは日本国内の社会保障制度や教育で解決すべきものではないだろうか。

日本製の安い車や家電が入って来たアメリカの家電メーカー、車メーカーは確かにだめになった。だが、アメリカが日本製品を買ってくれたから、日本は豊かになれたのではないか。負けてしまったアメリカは、金融・ITであっと驚く会社を生み出した。日本はどんな新しい会社・市場を生み出せるだろうか。

最近議論が盛り上がっている日本人の働き方や有給の取り方についても様々な示唆が得られる。

日本人の有給の取得率は先進国では最低の部類に入るだろうが、それは労働者本人に有給の行使日を指定できる権利が在るからに他ならない。欧米では、上司が部下の有給取得日を(本人と相談はするだろうが)決めてしまう。部下を休ませることも上司の仕事なのである。当然自分で有給の取得日を決められた方がうれしいが、それでは社内同調圧力の強い日本企業では、有給を取らない方向にインセンティブが働くのは当然である。インセンティブ設計からいろいろと労働環境は改善の余地が在るのではないか。

ワーカホリックに関する記述は、ワーカホリックが多い自社の社員(特に上司)に見てほしい。

(ワーカホリックが)問題になるのは、ワーカホリックになった人が昇進して、職場全体を長時間労働にさせる権力を持った場合である。この場合、部下の多くは長時間労働を望んでもいないのに、ワーカホリックの上司のために残業させられ帰宅できない、という負の外部性が発生する。これが多くの職場で観察される現象ではないだろうか。

※カッコ内筆者

仰るとおり。実務経験のない学者だって、場合によっては、実務者以上に実務に関する深い考察を得られるのだ。

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