大変失礼なことだが、デビュー当時、林真理子はキワモノだと思っていた。『ルンルンを買っておうちに帰ろう』は面白かったけれど、地方の大学を出て、東京で働き始めたばかりのねーちゃんである私には、なんだか空恐ろしい世界であった。本書を読むと「等身大の20代を赤裸々に語った」エッセイは、野心と気合の結果であったことを知る。
本書の太い帯には30年前の著者が読者を睨みつけているの写真がある。格闘技に向かう選手のようなまなざしだ。これが「野心」のオーラだとしたら、とても太刀打ちできない。林真理子とはこういう作家であったのか、と改めて舌を巻く。
田舎の本屋の娘で、自己顕示欲だけは人一倍。イジメにあいながら逃避先を画策し成功を収める。しかし就職試験は40社も落ち続け、屈辱感をバネに、コピーライターとしてのし上がる。デビュー作で『ルンルン~』が大ベストセラーとなり、マスコミに引っ張りだこ。しかしそれは、才能を認めていた人ばかりではなく、イロモノ的な意味合いも強かった。
小説を書いた、と聞いたとき「ああ、またか」と思ったのを覚えている。ちょっと可愛い女子大生やタレントが「小説も書いてみましたぁ~」と出したはいいが、モロに一発屋でそれっきり、というのがあまりにも多かったのだ。また、それが許された時代の始まりでもあった。世間の見方も私とそう違っていなかったと思う。
だが、写真のとおり「モノ」が違った。地道にコツコツと出し続けた小説は「意外に面白い」から「すごく面白い」にどんどん変わっていった。直木賞を受賞したのは86年。今や多くの文学賞の選考委員を務める大家のひとりである。
ここに至るまでも、週刊誌など、エッセイの連載は長期にわたって人気を博し、折々の心情を正直に語ってきている。だから本書の「野心」についても初めて聞いた、というわけではないのだが、ここまでまとめて自分の経験に基づく野心の持ち方とそれの生かし方を語ったことはないだろう。自分が成功者であり、今が充実していることを踏まえて、20代、30代、そして40代の女性たちへ、ものすごい喝を入れている。
銀のスプーンを咥えて生まれてきたような人種と、底辺からのし上がってきた人間とは違うのだ、と明解に言い放ち、野心を前輪に努力を後輪に例え、強運は野心とセットで付いてくるものだと喝破する。30年間、常に最前線の作家として一歩一歩登ってきた人だからこそ、胸の琴線に響く。
「なんだ、この女、偉そうに」と、もはや、誰にも言わせない迫力は清々しい。売れたい、有名になりたい、と少しでも思う女性は必読だ。林真理子、すごい、天晴れである。
この本、バリバリの現役であったのにも驚いた。