私がさらに遠くを見ることができたとしたら、それはたんに私が巨人の肩に乗っていたからです ーロバート・フック宛書簡、1675年2月5日
18番目に登場するアイザック・ニュートンは「なぜ、あなたはそれほどの先見性があるのですか?」と尋ねられた際の答えである。この一言に本書を読むべき理由が、凝縮されている。
とは言っても、登場する150人の科学者の小難しい業績が並んでいる事典ではない。イメージからは想像しがたいエピソードをフックに、科学者の人柄や恋愛関係、どういった経緯から社会から賞賛される研究を始め、結果を残したのか?はたまた失敗したのか?が紹介されている。笑わざるを得ない話、驚愕の事実、涙腺を刺激するエピソードが見開き2ページにばっさりまとめられている。
知の巨人の肩に乗るための、はしごの一歩目になるのだが、一歩踏み出すと、科学者の業績や詳しい生き様がますます気になって、Wikipediaのクリックが止まらない。そして、数ページ前に読んだ科学者との関係性が気になり、本を後ろにめくってしまい、時間があっという間に過ぎ去ってしまう、けっこう厄介だ。
例えば、冒頭で紹介したニュートンはイギリス造幣局長官として活躍したことは、すでに内藤順が『ニュートンと贋金づくり』で紹介しているが、本書にはその話に加えて、強烈な自己顕示欲の現れとして、マニアと称されるほど、多くの肖像画を描かせた別の側面が紹介されている。経済学者のケインズは、ニュートンの錬金術に関する膨大な手稿を入手し、論文を書いた。そこでは、ニュートンを最後の魔術師と呼び、「コペルニクスとファウストを一身に兼ねているようである」と表現した。
そのコペルニクス(1473年生まれ)からはじまり、1944年生まれ、ストックホルムからのノーベル賞受賞の連絡を受けた後、サーフィンに出かけ、すでに4回も結婚している奇才マリスで終わる。アインシュタインが冒頭に登場する、Appleの不朽の名作CM「Think Different」の受け売りだが、四角い穴に丸い杭を打ちこむように、物事をまるで違う目で見る人たちがバタバタと登場する。話は逸れるが、HONZ御用達のリチャード・ファインマンは残念なことにCMには登場しないが、同じシリーズのポスターには登場している。
世界の見方だけでなく、現場に果敢に飛び込む、科学に貢献した冒険野郎、冒険野郎の科学者も登場する。1人は、南極大陸横断を目指す中で伝説的なリーダーシップを発揮したアーネスト・シャクルトンである。南極大陸に向けて帆を揚げた船は、大陸を前にして座礁し、28人の乗船員は、文明社会から切り離された氷の上に放り出された。しかし、その約1年半後、2000km離れた漁業基地まで歩いて辿り着き、28人全員が無事帰還した。
もう1人の冒険野郎は宇宙線に魅せられたヴィクトール・フランツ・ヘスである。当時、飛行機の上昇高度が3000-4000mの時代に、測定器を積んだ気球に乗り込み、5300m上空まで上昇し、その場で宇宙線の観測を行った。それも2年のうちに、10回も上空を飛んだ。「宇宙線の発見」への情熱が、ノーベル物理学賞受賞につながった。
本書には登場しないが、ニュートンの誕生から遡ること190年前、レオナルド・ダ・ヴィンチという偉大なる万能の天才が誕生した。そして、ダ・ヴィンチを題材にした『神々の復活』という小説に影響を受け、その偉大な精神に一歩でも近づこうとした2人がいた。KJ法という発想術を開発した川喜田次郎と独創的な視点から世界を読み解いた「知の巨人」梅棹忠夫である。川喜田は本の中で、ダヴィンチが左ききだったという事実に天才と自分を結びつける点と点を見つけ、梅棹は生涯続ける習慣となった手帳をつけることで、天才に近づこうとした。若い頃はしばしば自分が憧れる天才にアイデンティフィケーションをこころみると、岡本太郎も思ったそうだ。
本書に登場するエキセントリックな150人の科学者のなかにも、読者の人生に影響を与える出会いがあるかもしれない。
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懐かしの著者インタビュー。
古代から現代に至るまでの科学のあらゆる分野の大発見をたどりつつ、歴史がどのようにして科学を生み、科学はどのようにして歴史と世界を変えてきたかを220点を超える豊富で貴重な図版を駆使して平易に語る一冊。
このタイミングだからこそ、気になる一冊。