いったい自分はどうすればモテるようになるのだろうか。世の中には、そんな人類の究極命題とも言える恋愛のメカニズムを科学的に解き明かすことを使命とした「恋愛学」という学問が存在する。本書では、そんな恋愛学の専門家が恋愛のメカニズムを人間の五感から解き明かす。恋愛にまつわるタブーや迷信にも容赦なしで切り込む語り口は小気味よく、新感覚の恋愛論としても楽しめる。
そもそも我々はどんな人に惹かれてしまうのか。そのキーワードは”子孫繁栄”。人間の究極目的は「有性生殖」による種の保存であり、われわれの遺伝子は自分自身のコピーを多く残してくれそうな相手のことを「魅力的」だと感じるようインプットされているのだ。
まずは視覚から。私個人の好みは別にして、男性にとっては女性のプロポーションの美しさはその魅力の重要な判断材料となっている。女性の理想的プロポーションはウエストとヒップの比率であるWHR(Waist to Hip Ratio)で表され、実証研究から理想的な比率は約0.7であると言われている。
さらにポーランドの人類学者ポーロウスキ博士らの調査により、男性がヒップの大きさよりも、ウエストのくびれに魅力を感じているということが分かった。理由としては、ウエストサイズが大きい女性は妊娠中の女性や中年の女性を想起させること、また脂肪が腰と乳房に蓄積されお腹回りがスリムなのは、女性ホルモンであるエストロゲンの多さの証と受け取られることが考えられる。
男性がくびれたウェストの女性を好むのは科学的論拠があってのことだ、などと明言すると女性陣からのお叱りを受そうだが、女性だって遺伝子の声に素直に従いルックスで男性を判断しているようだ。
女性は「男性的な顔立ち」の男性が好きなのか、「女性的な顔立ち」の男性が好きなのかという機軸で考えると、一世代前の研究では、女性は男性的な顔立ちを好むという研究結果が出ていたが、最近では女性的な顔立ちの男性を好む女性も多くいることが判明してきた。日本人の場合はとくに女性的な顔だちの男性がモテるのだという。
この2つの好みの違いはどこから来るのか。被験者である女性のバックグラウンドを調査したところ、妊娠しやすい「排卵期」にある、「女性に恋人がいる」とき、「浮気相手として」の場合、そして「自分を魅力的と思っている女性」の場合に「男らしい顔」が好まれることが分かってきた。
ふだんは「適度に女性的な顔を持つ男性を好む」女性も、ある局面においては「男性的な顔を持つ男性を好む」といった移り気は、どう解釈したらよいのか。その裏には女性の恋愛における最適化戦略が隠されている。
実は、女性による「女性顔の男性」志向には男性の子育てへの期待が反映されている。男性の女性顔はその優しさ、つまり女性に経済的資源を与え育児に参加してくれる目印としての機能を果たしている。そのために長期的な関係を築きたい相手、つまり結婚相手として女性顔の男性が好まれることになる。
しかし子育てと子どもの出産とは別問題。生まれてくる子どもは健康でたくましいほうが良いだろう。狩猟採集時代の遺伝子を持つ身としては、本能としてたくましい狩猟能力に優れた男性を好む。その本能が、女性が妊娠しやすい時期において「男性顔」を選好するという志向に表れてしまうのだ。
現実的には、たくましさと優しさを同時に持つ男性が稀有であることから、どちらか一方に秀で他方に劣る男性を選択しなければならないことが女性の悩みを深刻にさせている。女性からは遺伝子レベルで我々男子の甲斐性を品定めされているようで、なんとも複雑な心境だ。
視覚の次は嗅覚。女性が恋人選びの段階で、視覚・聴覚・触覚を差し置いて最も重要視するのは嗅覚だというのも研究で明らかにされており、においが恋愛の行方を左右するといっても過言ではない。
体臭の相性を解く鍵はHLAにある。HLAとは”Human Leukocyte Antigen”(ヒト白血球型抗原)の略で、白血球にあるたんぱく質を作る遺伝子の複合体である。ABO型が赤血球の血液型であり、HLAは白血球の血液型にあたる。HLAは尿、汗、母乳等で分かるもので、鋤鼻器官(鼻の奥)で「においの相性」として私たちに無意識のうちに認識されているという。
恋愛感情とHLAの関係で重要なのは、HLAは細菌やウイルスに対抗するための免疫情報を受け持っているという点だ。男女間でHLAが異なるほど、つまり多様性があればあるほど、生まれてくる子どもは病原体への対処の可能性が高く、厳しい環境に適応できる可能性を先天的に持つということになる。
したがって、男女は恋愛関係を構築する上でHLAが異なる異性を求めるため、異性の好みは体臭の好みとして発現してくることになる。体臭が良いにおいであるということは、互いのHLAが異なっていることを示し、くさいと感じることはHLAが近いことを示している。事実、HLAが似たもの同士は相性が合わないばかりか、妊娠しづらい、流産しやすい、出産しても未熟児になりやすいという。男女はお互いのにおいを通じて先天的な相性、つまり運命的な「赤い糸」と呼ばれるべき恋愛関係を感知していることになるのだ。
ABO型の血液型による性格・相性判断はまったくといって良いほど科学的根拠がないが、HLAには”確実に”科学的根拠が存在する。恋愛の相性を占うには赤血球ではなく白血球を用いる日が、そう遠くない将来にやってくるかもしれない。
その他、「聴覚」-男性ホルモンのテストステロンと音楽的教養の関係、「味覚」-キスが人にもたらす6つの科学的効用、「触覚」-3種類の男性精子(ブロッカー精子、キラー精子、エッグゲッター)の知られざる役割分担など、科学的論拠に基づく恋愛論は、男女や未婚・既婚を問わず、恋人募集中の方、恋愛絶頂期の方、恋の終わりが近づいていることを実感している方にも参考になること請け合いだ。大人向け保健体育の教科書として、ぜひお楽しみいただきたい。