デパートでは恒例の冬物バーゲンが真っ盛り。しかしよくよく考えてみると、毎年服を買い足しているはずなのに、今年着るものがないとはどういうわけだろう。昨年・一昨年に買ったシャツやセーターはどことなく古ぼけて見える。結局、衣類を毎シーズン買い続けてもタンスの肥やしが増えるばかり。
そんな悩める自分にぴったりの本が見つかった。コーディネートのレベルアップとタンスの”メタボ”解消の一石二鳥を実現すべく、松屋銀座のカリスマ紳士服バイヤーが定番アイテムの着こなしを伝授してくれるのがこの一冊だ。
そもそも、なぜ我々はコーディネイトに失敗してしまうのか。思い起こせば休日のカジュアルウェアはドレスコードがない分だけ自由度が高く、ついついショッピング当日の気分で服を選んでしまいがち。場当たり的な選択の結果、気が付けば統一感に乏しい服ばかりが増えるというわけだ。
過ちの第一歩は「休日には休日用のアイテムを着なくてはならない」という先入観にある。「ドレスダウン」という言葉が表すように、オフの日の着こなしもまずフォーマルウェア、ビジネススタイルの基本を踏まえたうえで着崩していくというのが順序だ。そしてきちんと着崩すためには、きちんと着ることが前提となる。
「男性がカジュアルスタイルで失敗する最大の原因は、カジュアルアイテムに不用意に手を出すことにある」
そう断りをおいた上で著者が提案するのは、紳士たるもの「たとえ休日であっても、ワードローブの核となるアイテムはジャケットであるべき」という持論だ。
ジャケットと対極にあるアイテムといえばTシャツ。ジャケットが体のラインの補整に役立つのに対し、Tシャツは決して体型をカバーしてくれない、非常に無防備なアイテムと言える。いかにも「鍛えました」という体型も、年とともにそこに努力の跡が感じられるだけにTシャツ姿に”若作り感”が漂ってしまう。
「40歳を過ぎたらTシャツを着るのはやめよう」
著者の提案するコーディネイト戦略は非常にシンプル。点数を絞った定番アイテムを揃えること、アイテム数を絞ることで一点当たりの予算を増やしクオリティにこだわること、そして何よりも定番アイテムは自分の適正サイズを揃えること。著者が本書で取り上げる定番アイテムは時代の流行に左右されない万能アイテムでもあり、最低限5年間は着られるものばかり。自分にしっくり来るサイズの着慣れた定番アイテムを着ることでリラックスでき、相手にも安心感を与える。これがファッション誌の言う”こなれ感”にも通じる。
意外に思われるかもしれないが、最初の定番アイテムは白シャツ。いろいろなアイテムに手を出さず「白のドレスシャツの、着こなしバリエーションを増やす」ことにお金と知恵を注ぐのは、ファッション偏差値を効率的に上げる賢い方法だ。
最初の1枚としておすすめなのは、ロイヤルオックスフォード生地の白シャツ、襟はセミワイドカラーで、もちろん長袖。適正サイズ、適正素材のものを一切妥協せずに選ぼう。 “ジャケットと白シャツだけ”に的を絞ったコーディネイトは、テクニックが必要ない分、アイテム自体のパワーを借りて着こなすスタイルとも言えるからだ。
ここは夏場も長袖にこだわりたい。そもそも半そでのシャツはその構造上、エレガントに着こなすことは不可能だという。実は半袖シャツは、長袖と比べ袖の筒が大きく作られており、二の腕にフィットしない感覚が垢抜けた印象にならない大きな原因となっている。それに比べれば、男性がシャツを腕まくりする姿のほうがよほど絵になる。(そうは思わないだろうか?)
「男性のファッションは白シャツにはじまり、白シャツに終わる」
秋冬のおすすめ万能アイテムの筆頭はネイビーのジャケット。冬物は夏物に比べ価格も上がるので、より長く着られる耐久性も重視したい。生地はイギリス製もしくは国産の”縦・緯双糸”が正解。耐久性とハリに優れており、光沢感はあまりなく着た印象もカチッとした感じになるので通勤にも活用できる。起毛素材ではない、梳毛とよばれるちょっと薄手の生地を選んでスリーシーズン対応(盛夏以外の秋・冬・夏に着られる)の素材にしておけば、寒暖をコートやベストで調整すると長い期間にわたって着ることもでき、ますます経済的だ。
白シャツにジャケットとは、学生時代の制服や新入社員時代のマナー研修の記憶がよみがえり、変わり映えのしないコーディネイトのように聞こえるかもしれない。しかし、体にフィットするシャツとジャケットをパリッと着流す姿は清潔感もあり、お洒落で見栄えも良いものだ。
やはり、着こなし・ファッション・コーディネイトにしても、まずは一定の型を身に着けることが先決。その基本にカジュアルアイテムやドレスアイテムでわずかなアクセントをつけてやるだけで、立派にコーディネイトは出来上がる。基本や型からどこをどれだけアレンジしてやるか、そのバリエーションの出し方が個性であり遊び心の見せどころだろう。
著者が参考にしているというスティーブ・マックイーン。体にフィットするシルエットのものを着ると見栄えがする、その良い手本が彼だろう。身長は170cmそこそこと、ハリウッド俳優の中では小柄ながら、サイズ感・バランス感は抜群。シンプル・イズ・ベスト。定番アイテムを揃えきちっとした着こなしを徹底すれば、周囲からのイメージアップは間違いなしだ。
その他、白シャツ以外のシャツのバリエーションの増やし方や着こなし方、パンツ、ボトムス、靴、アウターの定番アイテムの選び方とコーディネイト方法、きれいに長く使うためのお手入れ方法まで、大人の服選びで知りたい情報がコンパクトなこの一冊にすべて収められている。大人向けファッションの教科書・良書として、ぜひおススメしたい。
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同一著者によるビジネススタイル・スーツの着こなし・ルールの指南書。カジュアルの基本はフォーマルにあり。きっちりポイントを押さておくにはこの一冊。
身なりをきっちり整えたら、こちらでオヤジスタイルにもおさらば。やはりキーは清潔感。
August Sander: Face Our Time, Sixty Portraits of Twentieth-Century Germans (Schirmer Visual Library)
- 作者: August Sander, Alfred Doblin
- 出版社: Schirmer/Mosel Verlag Gmbh
- 発売日: 2008/6/30
ドイツ人の写真家、アウグスト・ザンダーによる写真集。既製服がない時代の人々の正装・仕事着を60枚のポートレイトで綴る。今もって古びない彼らの着こなしを眺めると、コーディネイトについて新鮮な気づきが得られる。