文藝春秋のような出版社からの刊行物でなければ、手を伸ばさなかった本である。『潜入ルポ ヤクザの修羅場』は普通のノンフィクション作家が、暴力団に数か月ほども潜入して書き下ろした、というようなお気軽なものではないからだ。
著者は15年もの間、ヤクザとまさに寝食を共にしてきたヤクザ専門誌の編集者だ。マル暴の刑事がそうであるように、半分ヤクザだろうと疑われても仕方がない。じじつ、著者の携帯電話には、抗争で殺された暴力団員の電話番号が17人分も残っているというのだ。
歌舞伎町のヤクザマンションや大阪の飛田新地に取材拠点を持ちながら、ヤクザと関わりあいになっていく様子が凄まじい。7割がヤクザという新宿のマンションでは、ベランダからヤクザが落ちてきて目の前で、槍のような鉄柵に背中から刺さる。発砲事件のニュースを見て飛び出したら、そのマンションが現場だったこともある。マンションの理事長は警察のスパイであり、過去には女の半裸死体が階段に放置されていたり、と凄まじい。
その著者でも大阪のあいりん地区は危ないという。このエリアに踏み込むときは、それなりの覚悟をして行くべきだという。なぜならば、この地区と隣接する売春街である飛田新地の「ケツもち」すなわち用心棒は警察だからだというのだ。警察はこの地区に醜と悪を封じ込めていて、それを国民には知られたくないのだ。
全体的にも警察は強硬姿勢を取り続け、たとえば山口組のナンバー3まで検挙している。そのため暴力団員の人数も減りはじめ、東南アジアなどに海外進出をしはじめたともいう。ヤクザはもはや任侠団体などと綺麗事を言っていたら生き残れないのだと著者はいう。
企業社会と相似形だ。円高とデフレのおかげで、体力をすり減らし、海外進出しか道はなくなり、もはや雇用などと綺麗事を言えなくなってきた。ヤクザの衰退を素直に喜べないことに気づかされる本だ。