習近平が中国共産党の総書記に就任した。第5世代の最高指導者の誕生である。その陰でおなじく世襲王族の代表格だった薄煕来が失脚した。表向きは部下がアメリカ領事館に逃げ込んだことの責任をとらされた形になっているが、実際は共産党指導部が薄煕来の目指していた毛沢東時代への逆行に恐れをなしたからである。
本書はその薄煕来と中国共産党の凄(すさ)まじい権謀術数、腐敗構造や不正蓄財などを語る壮大なノンフィクションである。ニューヨーク・タイムズが温家宝首相一族の個人資産が2千億円を超えると報道したばかりだが、薄煕来一族の個人資産はなんと1兆円を超えるという。この2人は例外ではない。
2009年の中国人民銀行の公式報告書によれば、2460億元ほどが不正に海外に持ちだされたという。この数字は控えめであり、2006年の中央財経大学の調べでは1年間に7600億元の資金が海外にマネーロンダリングされているという。日本円にしてじつに10兆円である。
本来、その資金は中国の国民生活向上にこそ使われるべきものであろう。しかし、間もなくやってくる中国の少子高齢化による経済崩壊に備え、共産党幹部などが海外逃亡をするために準備している可能性が高い。
主人公の薄煕来という男は文化大革命で父親の肋骨(ろっこつ)をへし折って殺そうとしたという。しかし、その父親はそれゆえに見込みがあるとして薄煕来を国家主席にするべく奔走する。大連市長、商務部長、重慶市書記などの役職をまわりながら、カネ、女、ヤクザ、スパイなどにまみれて行く姿はさながら水滸伝である。中国はいまだ明朝のまま生きている国家なのだ。
産経新聞12月8日「書評倶楽部」掲載