http://www.wowow.co.jp/drama/bob/
http://www.wowow.co.jp/drama/pacific/
テレビドラマ「バンド・オブ・ブラザース」と「ザ・パシフィック」がWOWOWで放送中だ。両ドラマともにスティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスが発案・製作総指揮をとっている。
前者は第二次世界大戦・ヨーロッパでドイツ軍と戦闘する米国パラシュート歩兵連隊を描いている。2001年HBOで放送された。製作費は1億2000万ドル。全10話だから、1話あたり10億円の製作費ということになる。後者は第二次世界大戦・太平洋で日本軍と対峙する米国第一海兵師団を描く。2010年にHBOで放送された。製作費は1億5000万ドル。ガダルカナルから沖縄戦までの全10話だ。
両者とも戦闘シーンでは、画面から目を離すことができない。目をそむけていると自分に弾が飛んでくるような錯覚をするほどだ。その無機質なまでの戦場の描写は、戦争を社会的・倫理的な意味から否定することとは別に、個の生存本能として絶対的に忌避したいと思わせるに充分である。
ところで本書は、ドラマと同時期の少年少女たちの手記を集めたものだ。ポーランドの15歳と16歳と年齢不詳の少年と、14歳の少女。イギリスの16歳の少年。フランスの13歳の少女。ドイツの15歳と17歳の少年と15歳の少女。アメリカの12歳の少年。ロシアの15歳と18歳の少年と10歳と17歳の少女。日本は太平洋戦争開戦時に19歳の少年と12歳の少女だ。
本書冒頭でポーランドの年齢不詳少年を除き、全員の写真が掲載されている。全員がじつに聡明そうである。それもそのはずで、編著者は「序」で手記を選ぶにあたり「語り口のユニークさと文章の質」を考慮したという。他に抜きんでた才能を持った少年少女たちだったのであろう。
これまで少なからぬ量の戦争文学を読んできたが、いまだに『アンネの日記』ほどの強い印象を持った本はない。それは大人が意図を持って書いた「文学」ではなく、少女が目の前にある銃後と心情を、ある意味で無機質に描いたからだ。「ザ・パシフィック」と共通するところがあるのかもしれない。本書もまたその印象が強い。
本書は第1章1ページ目から順に読む必要はない。適当な章を選んで読むことをお勧めしたい。たとえば第7章「スターリングラード攻防戦のあとで」では、ナチス占領下のパリで少女がイタリア人青年に燃えるような恋をしている。初恋はイギリス人パイロットだと決めていた彼女は、一目であるイタリア兵に惚れたのだ。そして「今やわたしには、生きる理由ができた。願い、待つ理由ができた。もう悩まない。白馬の乗った王子さまが、ついに現れたのだ」と書く。
第11章ではドイツ人少年が徴兵前に国家労働奉仕団に参加させられている。俳優か作家を目指す少年は宿舎で『ヴィルヘルム・テル』を読み、仲間はジャズを演奏していた。そして「将来、僕は自由な職業に就きたいと思う。そうでなければ、僕は息が詰まってしまう!」と書く。ドレスデン大空襲を遠くから眺めざるを得ない状況で「それはバルト海の色鮮やかな花火ではなく、煉獄の炎だった」とショックを受ける。
日本人が登場する第10章はかなり身につまされる。少女は月夜の美しさを縷々語ったあと「この時代に生まれ合わせた事を苦しみはかぎりなく有るけれど、又ちょっと「えらいでせう」ってほこりたい気持におそわれる」と続ける。しかし、その後「久木元さんはきっと母と二人で私が泣いて泣いてお見送り後には一日ぼんやり涙ぐんで居た事など夢にも思わずに居るでせう」と綴る。
原書は英語で書かれているのだが、もともとの手記はそれぞれの言語で書かれている。そのため文藝春秋編集部はそれぞれの手記原文を入手し、それぞれの言語の翻訳家に訳出を依頼したらしい。ドイツ語は赤根洋子、ロシア語は亀山郁夫、フランス語は河野万里子、ポーランド語は関口時正、英語は田口俊樹である。まさにドリームチームだ。