著者は数理生態学を専門とする進化理論の研究者である。5年ほどまえに『素数ゼミの謎』という本で科学好きの間で話題になった学者だ。
アメリカには13年や17年という長周期で大発生するセミがいる。その周期がなぜ素数なのかという理由を進化の観点からつきとめたのだ。
本書はいよいよ著者の本職である生物の進化について、一般人にも分かりやすく書き下ろした本だ。著者によれば進化とは変化し続ける環境からの影響をいかに減らすか、すなわち最悪の環境下でもいかに絶滅するリスクを減らすか、ということを生物が繰り返してきた結果であるという。「環境変動説」である。
この難しげなことを大量の事例を紹介しながら、一気に読めるだけのスピード感をもった本に仕上げている。わずか十数年で進化したロンドンの蛾、働きアリはなぜ女王アリから生まれた姉妹を育てるのか、山の頂にはなぜ蝶が多いのか、など生物の事例は当然に豊富である。
しかし、それ以外にナッシュ均衡やマーフィの法則など、経済学などでおなじみの理論も使って読者を結論へと導いていく。
その結論とは「強い者は最後まで生き残れない。最後まで生き残ることができるのは、他人と共生・協力できる者だ。」というのである。
最終章ではその進化理論は政治経済のあり方にまで適応できると考え、ヘッジファンドなどを激しく非難したうえで、ポスト資本主義のあり方を提言する。
ヘッジファンドなどは年金や保険の運用先であり、それ自体は現代的な共生の一部であろう。しかし、そのような一般的な反論を封じ込める不思議な力が本書にはある。
すでに本書のまえがきでトヨタやJAL、キリンなどの企業名が取り上げ、企業も「進化と絶滅」を繰り返していると指摘しているから身近に感じるのだ。であるならば、本書の読者は生き残り、さらなる進化を目指すビジネスマンでなければならないだろう。