東芝の現役エンジニアが書いた本である。専門は工業用CTだ。CTの工学的な入門書というようなものはなく、CTで人体以外のものを見たら意外と面白かったという感動を伝えたかったらしい。
前半ではレーシングカーのエンジン、メロン、牛、マンモス、異物発見、文化財などを、それぞれの依頼人の要望に合わせて切ってみせる。メロンの味は糖分だけで決まらず、意外にもCTで判るというくだりなどはと面白い。しかし、総じて想像がつく内容でもある。
後半ではさまざまなモノを切り、クイズ形式で提示する。じつはこれもまた簡単に想像がつくものだ。ともあれCTはかなり万能な機械ではあるのだが、持ち運びできず、時間がかかり、したがってコストは高く、使用目的は限定的だということが分かってしまう。
残念ながら本書はなにか物足りない感じがする。対象とする読者を絞り込まなかったことが最大の問題かもしれない。CTという技術を紹介しながらも、レーシングカー・エンジンの熱応力や、古代にロクロがあったかもしれないことが判ることなどを伝えていることから考えても、小中生向けの啓もう書であれば、かなり良い線をいっていると思う。