本書のタイトルは『キリマンジャロの雪が消えていく』と抒情的だし、副題も「アフリカ環境報告」で、地球温暖化を恨むばかりの、ありふれた書籍の一冊であるように見える。
しかし、本書において温暖化問題は議論の一部でしかない。人口爆発とその影響、天然資源とガバナンス、先進国の援助とその光と影など、多様な観点からアフリカの現在が描き出されている。
これからは本書を読んでいることを自明としてアフリカに関するさまざまな議論が進むようになるかもしれない。少しでもアフリカに関わるビジネスマンの必読書であることは間違いないだろう。
第1章はアフリカの地理と気候と有史以前の歴史についての概観だ。わずか23ページなのだが、事実だけを、数字を使い、過不足なく、流れるように記述している。一文字の無駄もない。
これほど完璧な概況レポートを見たことがない。ビジネスマンが担当する地域や市場についてレポートする場合、このような文章をお手本とするべきだと思う。
それにしても、アフリカの苦悩はあまりにも大きい。厳しすぎる気候と大地の上に、人間が大量に生まれ大量に死ぬ。政治は混乱し、人々は殺しあうか、絶望するかを選らぶしかない。野生動物は絶滅に向かういっぽう、素知らぬ顔をして大国が天然資源を買い占める。
そもそもアフリカ人の不幸の発端を作りだした先進国が援助に転じても、副作用が伴うために最善策が見つからない。たとえば小麦粉を配給すると、雑穀に比べ高温で焼く必要があるため、樹木が伐採されて砂漠化してしまうことがあるという。
アフリカ問題や環境問題に人生を捧げたといっても良い著者をして「あとがき」で、「アフリカを救い出す特効薬は見つかっていないし、たぶん、そうしたものはないだろう」となかば絶望しているほどだ。
著者は本書がアフリカに関する最後の著作になるというのだが、アフリカの終焉を告げられたような気がするのは評者だけであろうか。