高校の現代国語の授業で西脇順三郎という詩人を知った。「天気」という詩が教科書に載っていたのだ。いまにいたるまでの大きな影響を受けた。教室の片隅でそのとき一瞬にしてボクの心はギリシアの白き坂道の家の前に移動したのだ。詩はこうだ。
(覆された宝石)のやうな朝
何人か戸口にてささやく
それは神の生誕の日。
2003年にこの詩が載っている『Ambarvalia あんばるわりあ』が再版されたときには本当に嬉しかった。意味もなく2冊買った。なぜ、高校時代にそれほどまでに感動したのかは判らない。しかし。これ以降、この西脇の詩集どおりの旅行をすることになる。『Ambarvalia』は 「LE MONDE ANCIEN」と「LE MONDE MODERNE」の2部構成なのだ。
大人になってお金に余裕ができたとき、まずは第1部の古代地中海文明を訪れたのだ。エジプト、ギリシャ、モロッコ、ローマを何回か訪れている。今年からは第2部だ。この11月はじめてイギリスを旅行する。まだフランスにもドイツにも行ったことはない。わがヨーロッパ旅行は西脇の詩集を追うように、西洋文明史に同期しているように、50台になってやっと地中海から大陸ヨーロッパへと移るのだ。そうだ、この書評は『あんばるわりあ』についてではない。
本書は詩集である。何十篇もの詩が収録されている。ごくごくはじめの24ページ目に「イタカ」という詩が収録されている。まずいものを読んでしまった。ボクの心は、またまた遥か古代の地中海を飛びはじめてしまった。現代ギリシャ語の詩人カヴァフィス氏の詩だという。この詩は人生の目標は必ずしも輝くトロフィーではなく、じっくり航跡を楽しめと言ってくれているのだ。すばらしい詩だ。まずはこの詩を立ち読みすることをお勧めする。