1903年、『ニューヨーク・タイムズ』は未来を予測して、飛行機の開発は時間の無駄だと宣言した。ライト兄弟の初飛行のわずか1週間前だった。それに懲りずに同紙は1920年、ロケットの研究などナンセンスだと断じた。その49年後、アポロ11号が月に降り立ったとき、賢明にも同紙は予測が外れたことを認めて謝罪した。
かくも難しいテクノロジーの未来予測に挑戦してみたのが本書『2100年の科学ライフ』である。著者はニューヨーク在住の有名な日系人物理学者だが、この本のためにノーベル賞受賞者の南部陽一郎など世界屈指の科学者300人にインタビューをしたという。予測にあたってはすでにプロトタイプが存在し、物理法則と矛盾しないことを前提にしたという。すなわち、実現が早まることはあっても、ただの夢に終わることはないだろうということだ。たしかに、本書が2030年までに実現するだろうと予測している脊椎損傷の治療などは山中教授のiPS細胞の発見のおかげでいまから5年以内にも実現しそうだ。
それではまず、コンピュータの未来を見てみよう。2030年までにコンタクトレンズ型のディスプレーが登場する。万能翻訳機はもちろん、2100年の時点ではコンピュータは脳波を読むことができるようになる。その結果、21世紀の私たちにとって、未来の人々は念力を使っているように見えるはずだという。
医療の分野では2030年までに、幹細胞をつかって脊椎損傷だけでなく糖尿病やガンまでも治療できると本書は断言する。医師は患者の身体にポータブルMRIなどを当てながら診断をくだすことができるようになる。また、2100年までには老化のメカニズムが解明されて、寿命は150歳を優に超えるであろうと予測する。超々高齢化の未来とは一体どんなものなのだろう。恐ろしくもあり、楽しみな未来でもある。他に取り上げられているのは人工知能、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行、そして富と人類の未来。
自分は100年後の未来などに興味がないという人にこそ手にとってもらいたい本でもある。意外にもワクワクするか、やはりバカバカしいと感じるか、自分の未来を見ることができるはずだ。子供心をもった老人か、老人の心をもった老人のどちらかが読者の未来なのだ。
(週刊現代11月3日号掲載)