昨日久しぶりに日本橋丸善に寄ってみた。この書店の3階は科学書と芸術書が肩を寄せ合うように棚が設定されていて、ボクにとっては理想空間だ。『ハダカデバネズミ』が相変わらず売れてるななどと科学書コーナーを見終わってから、芸術書の売れ筋コーナーで『これで読める茶席に禅語』を発見した。このような本はネット書店ではなかなか見つけることができない。
本書を必要とする人の数はそれほど多くはないと思う。茶席や立派なお座敷のあるお宅に招かれたとき、掛け軸に何が書かれているかを自力で解読したいという人のための本だ。そのためには、まずは文字を判読しなくてはならない。『これで読める茶席の禅語くずし字辞典』の表紙の文字は「無」である。本書にはこの「無」以外に「花」「自」「玄」など100のくずし字、すなわち筆書きの草書が掲載されている。掛け軸に書かれている、少なくとも1文字でも判読できたら、次の章に進む。
次の章は禅語一覧である。たとえば「道」という字が判別できたら、「禅語一覧」の「道」の部を開く。4文字の掛け軸だとすると「道在目前」「大道無門」「道無古今」など9つの言葉が掲載されているので、これで大体読むことができるわけだ。ちなみにそれぞれの読み下しは「道目前に在り」「大道無門」「道に古今無し」である。しかし、それでは何のことだか意味がわからない。そのために2冊目の『茶席の禅語ハンドブック』を開く。
『茶席の禅語ハンドブック』は文字数別に禅語とその意味を解説した本だ。3文字で有名なの禅語に「喫茶去」(きっさこ)がある。意味は「まあひとつお茶でも飲みにいこうじゃないか」である。そのまま受け取ってはいけない。真の意味があるからこそ禅語なのだ。本書の著者は有馬頼底師であるから、解説には趣がある。本書は辞書的な使いかたもできるのであろうが、各項を眺めるようにして読んでも大変面白い。それぞれの項を完全に理解し記憶する必要はないであろう。眺めて禅の雰囲気を感じるだけでも良いのだと思う。
有馬老師にも夢窓疎石にもお釈迦様にも大変失礼なのだが、本書はトイレに常備することとした。1語の解説の分量が1回分として丁度良いのだ。トイレで禅。