手に入れた全ての本を読みとおすことはない。読み通すのは2割くらいであり、6割は資料または老後の楽しみとして書庫送りになる本だ。残りの2割は時間や書庫スペースの無駄かもしれないと思いながらダンボール箱で眠ってもらう本だ。本書は序章を読んだだけでその2割に入ってしまいそうな本だ。
本書は序章でまず、今回の経済的大地震の震源地は日本だというのだ。元をたどれば日本の長引く超低金利がもたらしたものだと考えるべき面があるからだという。日本国内ではゼロ金利政策が続き、金利を稼げないジャパンマネーが世界に溢れだし、世界的にもカネ余りと低金利を醸成する展開になった。その結果ハイリスク・ハイリターンを求める危うい金融商品が生まれ破綻した、というのだ。
本当なのだろうか。自由市場経済では条件がどうであれ、人々は利益を最大にするように行動するのではなかったのか。よしんば、金利が低いからハイリスク商品が開発されたというのであれば、ハイリスク商品が発生しないためにはどの程度の金利であれば良かったのだろう。それ以前に、短期金利と長期金利を一緒くたに論ずることができるのであろうか。日銀はイールドカーブを左上がりの双曲線カーブにでもするべきだったのであろうか。
筆者はさらに「自己窮乏化型生産性上昇」という言葉を序章で提示する。つまり企業は生産性を上昇させるために雇用を減らすので、結果的に市場を小さくなり、売上げは減り、生産は低迷するというのだ。ということは、自動車業界はライン生産を停止するだけでなく、ボディも手打ちで作り、エンジンも手で削り、生産性を下げる努力をすれば、何千万人もの雇用を生み出し、結果的に彼らが自動車を買うことができるようになるので、業績は上がるということになるのであろうか。歴史的にみると、戦後一貫した生産性向上によって日本はすでに破綻していたのではないのか。
序章だけでもっと突っ込みどころがあるのだが、このあたりでやめておこう。本書の最終パラグラフには「わずかに残された希望」という見出しがついている。そこで語られているのはオバマへの期待だ。著者はアメリカの外交における一国主義からの決別と、富の再配分に対する決意に期待をもっているようだ。だとするとオバマへの期待というよりも民主党支持者であるというだけのことだ。
本ブログでは面白い本のみを紹介しようと思っていたのだが、ここ1週間はずれが続いていてイライラしていた。本書には八つ当たり気味かもしれない。ちなみに本書の著書が週刊「エコノミスト」で連載中のコラムはじつに面白い。ダイナミックで政治経済的な分析よりも国際経済史などでの活躍を期待したいところだ。★☆☆。