チョコレートの原料となるカカオの学名はテオプロマ・カカオ、すなわち「神々の食べ物」である。その「神々の食べ物」の世界生産の35%以上を占めるコートジボワールには多数の児童奴隷が存在する。
チョコレートを食べることでダイエットしている人びとがいる日本の反対側には、そのチョコレートを見たことも食べたこともない子どもたちが原料のカカオ豆を収穫するために強制労働させられ、短い一生を終えているのだ。
本書はカナダ人女性ジャーナリストによる丹念で危険な取材によるものだ。事実、本書の取材中に彼女が会った、別のカナダ人ジャーナリストは直後にアビジャンで暗殺されている。
もちろん、このような「アフリカ問題」は直接的には消費者の責任ではない。アフリカ人の大人たちに責任を押し付けるわけにもいかない。ヨーロッパ人による植民地支配によってもたらされた長期的な問題だといえる。
ところで、ジョニー・デップの主演で好評だった映画「チャーリーとチョコレート工場」のなかでは、身長75センチのウンパ・ルンパ族が歌いながら働いている。原作はイギリス人作家ロアルド・ダールの児童小説なのだが、1964年刊の原作ではウンパ・ルンパはピグミー族の一種と明示されていたらしい。しかもウンパ・ルンパ族は給料をカカオ豆で受け取っている。イギリス人特有のブラックジョークとはいえ、たちが悪すぎる。
本書でも紹介されているのだが、16世紀に世界最大の富と力を手にしていたであろうアステカ帝国ではカカオ豆が通貨であった。コルテスたちスペイン人に滅ぼされたアステカの遺産であるカカオ豆がアフリカにわたり、さらなる悲劇を演出しているのだ。
学名を変えるべきかもしれない。「悪魔の食べ物」こそがチョコレートにふさわしい。