この本はカバーのそでに書かれた内容紹介からしてすごい。「呪われた一族、クールー病、スクレイピー、狂牛病・・・すべてがプリオンに集約された後に見えてきたものとは?」 表紙も帯も煽りのてんこ盛りで、これを嫌がって買わなかった人も多いだろう。しかし、2007年のポピュラーサイエンス本トップ3の1冊だ。(かってにボクがランキングしただけのことだけれど)
第一章は中世ヴェネチアから現代まで続く、あるイタリア貴族家系に遺伝するものとして、中年になると不眠症をひき起こして死にいたるという奇病の紹介だ。これが怖い。なんとも恐ろしい死に方であり、一旦発症すると運命は決まってしまう。
第二章では場面は一転する。1950年代ヨーロッパの医者たちはパプアニューギニアにクールー病という奇病があることを知るところから始まる。この病気は女・子供を中心に震えながら死んでゆくというものだ。後にノーベル賞を受賞する学者がこの問題に取り組んだ。解ったことはこの病気がプリオンが原因物質であり、それは食人習慣が原因である病気だという衝撃的なものだった。
話はこうしてゴシックホラーのような中世から、現代のパプア・ニューギニアの食人部族にとび、研究者同士の権力闘争にまで発展していく。このノーベル賞受賞者同士の先陣争いのエピソードも目を見張る。片方の研究者には後日談があり、パプア・ニューギニアの食人部族の子どもたちを養子にしたうえ、小児性愛を行ったとしてアメリカで実刑に処せられている始末だ。
カンニバリズムがタブーであるべき科学的根拠が良くわかる。本書でも取り扱う狂牛病も人間による牛同士の強制的なカンニバリズムの結果だ。さて、昔から食といえば中国である。北京ダックからメラミンまでなんでもござれだ。水滸伝をお読みになった方はお分かりのとおり、すくなくとも宗時代には盛大に食人が行われていたことは明白だ。中国は奇病の宝庫であるかもしれない。
ちなみに本書によれば日本人は欧米人に比べプリオン病に罹りやすい体質らしい。韓国人も日本人と同じ体質である。韓国での牛肉騒動が激烈だった理由は、韓国のテレビ局がこのプリオン病に罹りやすさの数字を不正確に理解して、センセーショナルに報道したことが発端だった。