書棚に置いておくべき本がある。人生のときどきに読み返したくなる本はもちろんだが、書棚の持ち主の問題意識やセンスを一瞬で感じ取れるような本もある。ボクにとって前者の究極は『ご冗談でしょう、ファインマンさん』であり、問題意識という意味での一冊はセバスチャン・サルガドの『Workers』だ。この軽いエッセイと重い写真集の2冊があれば、目の前に高い壁が見えてきても勇気を持つことができる。
もうひとつの自分のセンスを表現するための本を選ぶのはなかなか難しい。年齢を重ねるにつれ音楽やファッションなどの好みは変化することがあるし、それがかならずしも第3者からみてよいセンスだと思われないことも多いからだ。しかし「本好き」を自認する人たちに共通して受け入れられるであろうセンスの良い本を発見した。
著者はアートワークを担当する東信(あずままこと)と写真を担当する椎木俊介だ。2人は注文に合わせて花材を仕入れ、花束をつくるオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を営んでいる。2005年と2006年にはTBSの「情熱大陸」とNHKの「トップランナー」に登場したこともあり、知る人ぞ知る世界的なフラワーアーティストである。
じつのところ、本書はフラワーアートの写真集といっても良いのだが、使われている花の和名と学名が索引付でリストされているため、タイトルどおり「植物図鑑」といえなくもない。登場する植物は1600種。使われた1万本の花が、ある章ではねっとりと密集し、ある章では互いに絡まりあい、ある章ではなまめかしい姿態で表現される。写真も印刷も素晴らしく、定価3200円はけっして高い本ではない。
B5変形で512ページ。縦写真は右ページに寄せ、横写真は見開きという扱いが美しいと思っていたら、ブックデザインは原研哉と松野薫だ。まさにプロたちの仕事である。折込のパンフレットによれば、版元である青幻舎は東信の本を本書を皮切りに3か月連続で出版するらしい。8月下旬には『東信作品集 花と俺』。9月下旬は『一億円の花束を作らせろ』(仮)だそうだ。最近の青幻舎の写真集は要チェックだ。『attitude(アティテュード) 』もおススメ。