ネットを眺めていると、クイズやパズルに出くわすことが頻繁にある。じっくり腰を据えてやるつもりもなかったのに、ついつい考えこんでしまい、しまいには「あれっ、オレ何しようとしてたんだっけ?」 ― 誰しも経験のあることだろう。
ちなみに、僕が最近見かけたものの中で秀逸だなと思ったのが、以下の問題である。
EXILEとEXCELの違いは何か?
答えは色々あって、まとめるとこのようになるらしい。上手い!しかもご丁寧にExcelで作っているところがニクい!
このような問題の面白さとは、答える際に、その人の人となりが如実に表れるというところにある。ゆえに、企業の面接で使われたもののパロディであるケースも多いという。上記の問題などは、おそらくただのネタであると思われるが、たしかに問題を考えた側にも、答えた側にも、一緒に働いてみたいなと思わせてしまうだけの魅力を感じる。
しかし実際の面接問題ともなると、少しばかり話は変わってくる。これまでにないくらい就職競争の激しい時代だ。当然のことながら、採用面接もこれまでになく厳しい。雇用なき景気回復に、仕事の質の変化が重なったことが追い打ちをかけているのだ。
そして現在、知的能力を試す自由回答において最も難問が出されることで知られているのがGoogle社である。本書は、世界一の頭脳集団とも称されるGoogle社の難問を紹介しながら回答のコツを徹底的に研究しようという、野心的な一冊だ。
通常、受ける側の立場として語られることの多いのが面接の宿命だが、問題を出す側だって必死なのである。その面接官の裏側が、本書を通して実によく見えてくる。ありきたりでない質問をしてこそ、どの企業も求めていながら測り方を知らない資質も試せるというものだ。そして求めている資質とはズバリ、革新を生む能力である。
まずは、本書の冒頭で紹介されているこの問題を考えてみてほしい。
あなたの体が5セント玉くらいの大きさに縮んで、ミキサーのなかに投げ込まれたとします。体は縮みましたが、密度は通常と変わりません。60秒後にミキサーの刃が動きはじめます。あなたはどうしますか?
答えはいろいろ考えられると思う。ブレインストーミングよろしく、出来るだけ多くの切り口を考えることも、一つのアピールポイントだ。
①ミキサーの刃の下で体を伏せる②刃の横に立つ③刃の上に登って軸の上に体の重心をのせる④ミキサーの壁をよじ登って脱出する⑤電話かメールで助けを呼ぶ、などなど。
ここで残念なお知らせがある。これらの答えのどれ一つとして、Googleでは点数を稼ぐことが出来ないそうだ。まず重要なのは、どの部分に着目するかということである。面接官がわざわざ密度などという言葉を出したのなら、ここですよとヒントをくれたようなものであり、これを見抜かなければならないのだ。
正解は、「ミキサーから飛び出す」というものである。要するに、この問題では、「スケールの変化による効果」ということがテーマになっているのだ。
体のサイズが通常の1/nに縮んだら、筋肉のエネルギーはn³の倍数で減少する。しかし、さいわいなことに体の質量も同じくn³の倍数で小さくなるだろう。だから5セント玉の大きさになっても、ジャンプできる高さは増えも減りもしない。(※エネルギー保存の法則によりh=E/mg h:高さ、E:エネルギー、m:質量)
よって、通常の体のサイズで30cmジャンプできる人であれば、誰でもミキサーから飛び出すことが可能なのである。
そして唸らされるのは、この問題を出題する意図だ。企業の成長とは、ある意味においてスケール変化とも言える。つまりは規模の拡大である。規模の小さいときに通用した問題の解決方法が、拡大した時にも同じように上手くいくとはかぎらない。スケールが変化したときに、何が変わり何が変わらないのか、この見極めを本問では要求されているのである。それもこれもひとえに、グーグルの事業内容と急成長が他に類を見ないことによるものなのだ。
また、このような深い洞察とは、逆方向の能力が求められる場合もあるから厄介だ。
例えば、こんな問題。
あなたはボブがあなたの電話番号を知っているかどうかを確認したいと思っています。ボブに直接たずねることはできません。そこでカードにメッセージを書いて仲介役のイヴからボブにわたしてもらいます。イヴはボブから返事をもらってあなたに渡してくれます。しかし、あなたはイヴに自分の電話番号を知られたくありません。ボブにどう指示しますか?
ある領域のプロフェッショナルであればあるほど、「ボブ」と「イヴ」という名前を聞いて、すぐにピンときてしまう。コンピュータサイエンスの教科書では、昔から「アリス」が暗号化されたメッセージを「ボブ」に送ることになっているからだ。そして悪役はいつも「イヴ」というスパイである。
はは~ん、これはRSA暗号だなと、決めてかかると痛い目にあう。たしかにRSA暗号の概略を説明するメッセージを上手に書くことは、間違いではない。ただし、シンプルさに欠けるのだ。
正解は、「ボブに電話をくれと伝える」というだけのことである。この問題は専門知識より稀有なものを試しているのだ。それは、不要なら知っていることを無視する能力だ。
つまりここでは、エンジニアという領域に限定しないスキルをが問われているのだ。起業家とエンジニアは、どこが違うのか。その答えの一つに、エンジニア的なものの見方を捨てられるということがあるそうだ。「創造性」とは、ときに単なる常識なのである。
「Googleは業態を変えながら成長してきました。決まった仕事に就いても、5年後には正反対の仕事をしていたりする。一つの仕事のために人を雇えばよいわけではなく、Google全体を考えて雇いたいのです」とは、人材担当責任者の弁である。
本書を読んで改めて思うのは、問題を出す側の創造力も半端ないなということだ。自社がどのような人物を欲するのか、そしてどうすればそのような人物を見極めることができるのか。それを考え抜くことが、企業の成長と直結する。
もちろん答える側だって、より良いポジションを得るために必死なのは言うまでもない。面接とは、お互いが創造力の威信をかけて対峙しあう場所なのだ、そんな緊張感がひしひしと伝わってくる。
一口に創造力とは言うが、その能力は千差万別である。しかし、それがどのような領域のものであれ、共通する部分もあるのだという。それは、創造力が試行錯誤の中からしか生まれないということだ。
試行錯誤に伴う、脳のゆっくりとした活動によって「まったく異質のアイデアや斬新なもの、独創的なものがどんどん結びつけられていくのではないか」ということが近年の有力な説となっているそうだ。しかも、仮に面接で試行錯誤が結果に結びつかなくても、粘り強さだけはアピールでき、評価も上がるのだと著者はアドバイスする。
本書は問題を解くことの面白さのみならず、問題の意図を読み解くことの面白さも、余すところなく伝えている。そして、そこで培われる試行錯誤の習慣は、絶えず変化するこの世界で生きている以上、誰にとっても大切なことであるだろう。面接前の対策本として慌てて読むだけでは、少しばかりもったいないなと思わせてくれる一冊である。
—————————————————————–
同じ著者による面接試験のマイクロソフト版。「世界にピアノ調律師は何人いるでしょう」、「スタートレックの転送装置が本当にあったら、輸送業界にどんな影響があるでしょう」「なぜ鏡は左右を逆転させて、上下を逆転させないのでしょう」「アメリカ50州のうち、どれでも一つなくしていいとしたら、どれにしますか」など、難問・奇問がもりだくさん。どちらかと言えば、こちらに載っている問題の方が、いやらしいものが多かった気がする。
こちらの著者は、元Googleの採用担当。面接試験以外にも、エントリー、履歴書、カバーレターの書き方など、幅広くカバーしている。
冒頭の問題「EXILEとEXCELの違いは何か?」について、改めて考えたくなった方はこちらから。こうして見ると、パッケージと値段も違いますねw