『日経サイエンス』8月号の特集は「太陽異変」である。黒点数が減りはじめていることは2010年あたりからネット上でも話題になっていた。この太陽の静かさは少なくとも百数十年ぶりだ。もちろん黒点数は太陽活動の結果であり、太陽の中では壮大な変化が起こりつつある。結論を急ぐとこれまで太陽は地球と同様、南極がS極と北極がN極に分かれているのだが、現在は南極・北極ともにN極になり、赤道がS極になっているという4重極構造になっているという。「活動 未知の領域へ」という記事には過去の太陽活動や黒点発生の仕組みなど詳しく説明されていて、日本の太陽観測衛星「ひので」が観測した太陽磁場マップなども掲載されている。日本が誇るべき衛星である。
なぜ太陽活動がそれほど気になるかというと、近い将来に地球は温暖化どころか寒冷化する可能性があるからだ。太陽活動が静かになると太陽を中心に形成されている磁気中性面(カレントシート)がフラットになり、地球に宇宙線が降り注ぐことになる。宇宙線は雲の発達を促し、太陽光を反射する率(アルベド)が増える。そのために地球は寒冷化することになるというのだ。1645年―1715年のマウンダー極小期には世界各地で不作が続き、日本だけでも寛永1643、延宝1675、天和1683、元禄1695、享保1732の飢饉が起こっている。このうち、寛永と享保の大飢饉は江戸時代の4大飢饉として数えられる。ちなみに天明の大飢饉1787はアイスランドのラキ火山噴火の影響だと言われている。現代は17世紀にくらべてはるかに地球人口は大きくなっており、一人当たりのカロリー摂取量も増え続けている。この時期に世界的不作が起こると、穀物価格が高騰し、開発途上国で不測の事態が発生しかねない。
8月号にはこの特集のほか「恐怖の記憶を消す薬」「国を挙げて竜巻に備える米国」「体に組み込む電子装置」「クジャクに学ぶ技」など非常に興味深い記事が満載だ。ちなみにクジャクの尾羽の色合いを研究することで、偽造されにくい認証マーク、高効率の光デバイスなどへの応用が考えられているという。科学はビジネスに直結しているのである。
『東京人』8月号の特集は「東京地形散歩」だ。まるでNHKのブラタモリのパクリだと思っていたら、案の定ブラタモリのプロデューサー尾関憲一氏が東京スリバチ学会会長の皆川典久氏、『東京の空間人類学』の陣内秀信教授と座談会をしている。座談会のタイトルは「ブームの仕掛け人が語る――時代が今、地形を求めている」だ。ほかにも詩人の佐々木幹郎氏が「縄文人の地霊を感じながら。」、タモリ倶楽部でお馴染みの江川達也氏が「歴史をひも解き。露わになった地形にエロスを感じます。」、「スリバチ学会名言集」など、さすがブームの仕掛け人たちが関与した特集だと唸る。今月号はカラー写真やカラー図版を大量に使っていて非常に楽しい。これで900円はお買い得だと思う。
『東京人』の最近の特集で買った号は「東京の川を楽しむ」「東京を巨大地震が襲うとき」「潜入!土木工事の現場」などがある。バックナンバーリストを改めて見てみると「チャイナタウン神田神保町」「工場見学に行こう」「軍都東京の昭和」なんてのもあったことを発見した。侮れないなあ。年間購読料金は1万円ポッキリとのこと。
DNA鑑定で自分のルーツを知る特集である。日本人のミトコンドリアを調べると20以上のグループがあることがわかってきたという。たとえば、日本人の33%はD4というグループで大陸中央部起源、7%はGグループで北方起源、7.6%はM7aグループで日本固有、9.1%はB4グループで南方起源という具合だ。それぞれのグループを世界地図上で国別地域別の分布を図示する。たとえばD4グループは南部モンゴルで19.5%、中国西部では38.2%、タイでは3.7%といったことを知ることができる。自分のミトコンドリアタイプが判れば、その地域に対してなんとなく愛着を感じるようになるかもしれない。
本誌では実際に著名人のミトコンドリアタイプを調べている。舞の海秀平氏はモンゴルっぽいかなと思っていたら、じつは東南アジアのFだった。写真家の石川直樹氏はバイカル湖付近のマンモスハンターだったAグループだった。とはいえ、ミトコンドリアで自分のルーツを探すというのはロマンの域を超えない。ミトコンドリアDNAは母親からのみ受け継がれるため、父親から受け継いだ遺伝情報は意味をもたないということになるからだ。もし自分のDNAタイプが中国大陸中央部のD4だとしても、父親が生粋のドイツ人だとしたら、自分の半分はヨーロッパ大陸のどこかにルーツがあるということになる。そのような混血が何百世代もつづいてきているわけだから、実際にわかることは自分のルーツというより、自分のミトコンドリアのルーツということだ。そのことを割り引いても面白い特集だった。
特集は「ビートルズが聴こえてくる」だ。このたぐいの特集であれば書店で「まあね」と呟きながら棚を去ることが多いのだが、見開き4ページのビートルズを取り巻く人脈相関図が欲しかった。ラヴィ・シャンカールだのエレファンツメモリーなど懐かしい顔が勢ぞろいである。18日後に迫ったロンドンオリンピックの開会式にビートルズが出てくるのではないかとの噂がある。ポール・マッカートニーとリンゴ・スター、ショーン・レノンとダーニ・ハリスンの息子たちだという。ローリングストーンズやザ・フーも噂にあがっていた。楽しみだ。
ところでリンゴ・スターを除くビートルズの3人はアイルランド系だ。ジョン・レノンは息子にアイリッシュのJohnであるSeanと名付けたほどである。シーンのミトコンドリアDNAを調べると33%の確率でD4グループであるはずだ。母親のヨーコはいうまでもなく日本人なのだ。それゆえにミトコンドリアだけに自分のルーツを求めるのはいささか無理があるのだ。