犯罪者を反省させればさせるほど、累犯者が増える。それどころか、ちょっと悪いことをした人を反省させることを繰り返していけば、その家系からいずれ犯罪者が生まれるかもしれない、と著者は主張する。
うそだろ? とまず思う。しかし本書を読み進めれば、多くの人が「体感」として腑に落ちるはずだ。
ポイントは「反省すると犯罪者になる」ではなく、「反省させると……」だということ。そしてその「反省させる」とは、具体的には、子どもの頃から(少なくとも私は)言われ続けた「言い訳するな! 反省しろ!」といった態度のことを指す。こういったシチュエーションでの「反省させる」には、必ずといっていいほど「言い訳するな」と「相手の気持ちになって考えろ」という言葉がセットになっているが、何よりこれがいけない、というのだ。
著者はLB指標の刑務所で更生支援をしている。HONZの読者ならおなじみの言葉かも知れないが、Lはlongの略で刑期10年以上、Bは犯罪を何度も繰り返す傾向があることを示し、LB指標の刑務所には長期刑累犯者が収容されている。そして基本的に彼らは「矯正不可能」と考えられているといっていい。
当然ながら、そこで受刑者は日々「反省させ」られているわけだが、著者は逆に、彼らに自身の言い分を徹底的に語ってもらう。例えばある受刑者は、自分が殺した相手に対して「自分がこんなところに入ったのはお前のせいだ」と罵倒する。読んでいて、とんでもないヤツだ。やはり犯罪者が普通の人間とは違う、と思ってしまいそうになるが、受刑者の多くは、自分の言い分を語るうちに、やがて自分がいかに酷い犯罪を犯したかに気がついてゆくという。
また、犯罪者の更生の一手法としてロールレタリングというものがある。ごく簡単に言えば、受刑者が被害者や自分の家族などに対し、擬似的に「被害者の心情を考え」「相手の立場になった」手紙を書くという更生のための手法である。本書で紹介されている例では、まずは自分から被害者への手紙を書き、次に被害者の気持ちを想像しつつ、被害者から自分への架空の手紙を書く。それを繰り返し最後は被害者への謝罪の手紙。内容はおのずと、「酷いことをしました」「二度としません」「反省しています」「心からお詫びします」といったものになるわけだが、これに対しても著者は更生にはつながらないとする。
実は私も小中学高校時代、謹慎や停学中など、何度となく反省文を書いてきたが、結局、「反省文書き」の名人になっただけである。一時期は友達の分まで書いてあげて、秀逸な反省文を量産していたほどだ。読み手である教師の性格まで考えた名文を書き上げ、見事に教師の涙腺を刺激することに成功したときにはある種の達成感があったが、もちろん、まったくもって反省していなかったことは言うまでもない。
この傾向は見事に受刑者や少年院に入った子どもたちにも当てはまり、累犯者ほど反省文やロールレタリングの文章が巧くなるのだ(呆れたことに、それをもって、何度も施設に入っている者のほうがよく反省している、という結論を出した研究者もいるそうだ)。
著者のロールレタリングのやり方はまったく逆で、被害者や自分の親へ率直な気持ちを書かせる。最初は罵倒や罵詈雑言で始まるが、それを素直に書くことで頑な心がゆるゆると溶けていき、最後には素直な悔恨が生まれるそうだ。特に虐待した親に対しては、好きだった、もっと愛してほしかった、という悲痛かつ率直な訴えとなる傾向があるという。すなわち、最初から相手の立場になることなど無理な話で、まずは自身の感情を十分に外に出すことで、はじめて相手のことを考えることができるようになる、というわけである。
そんな具体例を織り交ぜつつ、本書は、現在の日本の厳罰化傾向、すなわち、過ちを犯した人を厳しく「反省させる」べし、という方向性が果たして良い社会を生むのか(本書の意見に沿えば、結局、世間の反省への圧力はより多くの犯罪者を生むことになるだろう)についての議論をも喚起する。そして、そもそも、日本社会が強く持つ、反省を求める空気、そして「反省しさえすれば赦す」という傾向(あるいは、反省してシュンとしている相手をみて、自分を大いに満足させる下卑た心理とも言えるかもしれない)などについて大いに考えさせられるのだ。
その意味で大局的な視点を持った本なのだが、実は、極めて役立つ実用書でもあることを、最後に指摘しておきたい。
「反省」と言えば「しつけ」。本書の後半、第4章は「頑張る『しつけ』が犯罪者をつくる」、最終章が「我が子と自分を犯罪者にしないために」。主として子どもたちへの対応に筆が割かれているのだ。
さっそく、本書に書かれていることを、妹を泣かした長男に対して実践してみたのが、これが効果テキメン。長男は、怒りながら自分の言い分を語っているうちに、やがて自分が悪いことに気がついたみたいで、「どう思う?」と聞くと、何やら納得して妹に謝っていた。
即効性のある超実践的な子育て本としても、本書をお勧めする次第である。
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実は著者は美達大和のこの本が出版されたことに驚き、本書の出版を決意した。そして同じ出版社に、同氏と同じ方法でコンタクトを取り、出版が実現したのである。成毛眞のレビューはこちら。
こちらも美達大和の著書。この本については『反省させると犯罪者になります』のなかでも取り上げられているが、相反する両方の意見を読むことで、より思索が深まると思われる。>成毛眞のレビュー
『反省させると犯罪者になります』は、話題のこの本の副読本にもなるだろう。