若い世代に絶大な人気を誇るサイバーエージェントの藤田晋社長が、サイバーエージェントの成長と苦難を赤裸々に告白した本である。もしかしたら、この本は若い世代にとってバイブルとなるような本になるんじゃないか?そんな予感がしている。そう思うくらい30代の私には心に響くものがあった。
ネットバブル崩壊後、買収危機にあったサイバーエージェント。そのことは前著『渋谷で働く社長の告白の告白』に詳しい。『起業家』では、その後、メディア事業を、サイバーエージェントの主力事業にするまでの過程が描かれている。その間に訪れた第二のネットバブル。そしてライブドアショック。その間に苦悩する社長の姿をみて、社長というのも同じ人間なんだな。とあたりまえのことを思ってしまった。
盟友である堀江貴文さんとの交流の話にも多くのページをさいている、中でもライブドア事件で逮捕されて、保釈されたときの話には胸が熱くなった。堀江さんの「本とか差し入れてくれる人が多いんだけど、座布団と一輪の花が嬉しかった」という言葉も印象的だ。
この本の一番の見所は、藤田晋社長が、自らメディア事業をひっぱって、黒字化にもっていくところを追体験出来ることである。2年で黒字化しなかったら、社長を退任するという背水の陣を引いたとき、役員のほとんどが、藤田社長が会社を去る決断をしたと受け取ったらしい。しかし、総合メディアプロデューサーとして、事業をひっぱり、最終的に黒字化にもっていく。この一連の流れは読んでいて本当におもしろい。
またサイバーエージェントの経営手法にも注目してほしい。「21世紀を代表する会社を創る」というのがサイバーエージェントのビジョンなのだが、この会社なら、それも可能かもしれないと思えてくる。サイバーエージェントをみていると、新しい日本企業の働き方というものがなんとなく見えてくる気がするのだ。
サイバーエージェントは旧来の日本的経営を参考にし、社員を大事にすることを重視している。時代に逆行しているようにも見えるが、終身雇用を目指し、社内の飲み会を推奨する。(目標を達成した部署には飲み代が支給されて、さらに翌日の半休までついてくる!)、福利厚生に力をいれるといった、高度経済成長期に日本の企業がとっていたような経営を実践している。
もちろん旧来の日本的経営そのままではうまくいかないことは時代が証明している。しかし現代の若者は安定を求める傾向があり、終身雇用というものを切実に願っている。だからこそ、こういう企業のあり方が日本のスタンダードになればいいと思うし、日本にはこういうスタイルがあっていると思うのだ。
「全ての創造はたった一人の『熱狂』から始まる」
「新しいことを生みだすのは、ひとりの孤独な『熱狂』である」
これは幻冬舎の見城社長から、藤田晋社長に送られた言葉だ。不可能を可能にするのが起業家という職業だという。皆に反対されても、逆風にさらされても、窮地に追い込まれても、自分が本気で熱狂しているのであれば、不屈の精神でそれを乗り越えなければならない。
「絶望しきって死ぬために、今を熱狂して生きろ」
この本を読むことで、起業家を目指そうと思う人が一人でも増えれば、世の中はいまよりちょっとよくなるかもしれない。