なんとも魅力的なタイトルと装丁である。書店でつい手にとってしまうのは、こういう本だ。タイトルどおり、本書には500年以上前に描かれた系統樹から、ダーウィン手書きの進化論のアイデア走り書き、果ては最先端のコンピュータグラフィック技術を用いて作られたネットワーク図が、これでもかと盛り込まれている。異常な密度で書き込まれているものも多く、じっと眺めているだけでも飽きることはない。
進化生物学者であり、分類をキーワードとした著書を多数出版している著者が、これらの図をただランダムに並べておくはずがない。本書では人類が、生物を、家系を、そして万物をどのように分類・整理してきたか、そして、それをどのように表現してきたかを解説していく。
本書には多くの分類図が掲載されているが、その背後にある分類の基本的ルールは意外なほどに少ない。そのルールとは、本書のサブタイトルにもなっているチェイン(鎖)・ツリー(樹)・ネットワーク(網)だ。それぞれが、ヴィジュアル言語として人々の思考の整理、発想、共有に大きな役割を果たしてきたという。これらの概念で整理された分類図には、複雑な因果関係や上下階層、さらには時間経過までもが簡潔に表現されているからだ。家系図なしに言葉だけで、あなたの親類関係を表現する困難さを想像すれば、ヴィジュアル言語の有難さがよく分かるだろう。
例えば鎖は、直線状に並べられた対象の上下関係を厳密に表す機能を持つ。存在物が鎖(もしくは梯子)のように一列に並ぶという考え方は、進化的変遷という考え方を生み出すきっかけになったという。1745年には、博物学者シャルル・ボネが生物界を梯子の概念でとらえ、その頂点に人類を据える「自然物の梯子」を作成している。ダーウィンの『種の起源』より100年以上も前のことだ。
あらゆる分類を紹介する本書を読んでいると、人類には対象を「分類」する本能が組み込まれているのだと思えてくる。それほど、我々はあらゆるものを分類してきた(HONZも今回のサイトリニューアルで、レビュー本をジャンル別に分類した)。複雑な世界を複雑なまま理解することができない人類は、分類することで世界を認知しようとするのだ。分類思考について深く考えるもよし、美麗な系統樹を舐めるように眺めるもよし、多様な読み方のできる一冊である。