自由奔放・奇想天外な人生が好きな人には本書がオススメだ。
様々な著名物理学者の人生を紹介するのが本書。物理学者というと頭が固くて気難しい人をイメージする人もいるかと思うが、実は風変わりで冒険的な人が多い(もちろん本書で紹介されるような人たちはみな頭脳明晰)。
例えば旧ソビエトの異端児、レフ・ダヴィドヴィッチ・ランダウ。幼い頃から数学的才能を発揮し、わずか13歳で微分積分を習得、19歳の時には既に大学を卒業、超流動現象に関する研究でノーベル賞を受賞している、いわゆるエリート物理学者だ。他の物理学者と一緒に執筆した『理論物理学教程』は、『ファインマン物理学』と並ぶ二大物理学教科書として世界中で読み継がれており、物理学をかじったことのある人ならその名を知っているだろう。
そんな秀才ランダウであるが、人物像はハチャメチャだ。エイプリルフールには、同僚の物理学者たちに点数をつけて壁に張り出したり、バカにしていた同僚の物理学者に「今度、ノーベル賞委員会が君にノーベル賞を授与するから主な論文を私のところまで持ってきて」と言い、その物理学者が実際に論文を持ってくると「あれは単なる冗談さ」と笑い飛ばす。また私生活では妻子がいたが、自ら自由恋愛主義者を名乗り、自由奔放に女性と遊び、妻や弟子にまで不貞を奨める始末。まったく、お茶目というか、大人げない大人である。
もちろん、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』や『ファインマン物理学』で有名な物理学者、リチャード・ファインマンの奇抜な人物像も紹介している。素粒子の反応を図示化した「ファインマン・ダイアグラム」でノーベル賞をとったほどの人物であるが、夜な夜なストリップ劇場で食事しながら物理の計算していたり、ノーベル賞を受賞した際のコメントが「面倒くさいから断る」だったりと、破天荒ぶりが目立つ(ファインマンに関しては有名な逸話がゴロゴロあるが、それは『ご冗談でしょう、ファインマンさん』に譲る)。
他にも、老練な政治家(ローマ法王)による政治論争に巻き込まれたガリレオ・ガリレイの話、宇宙の存在に神様は必要ないと言い切り、それが原因で敬虔なクリスチャンである妻と離婚しているスティーヴン・ホーキンの話や、自らが発見した幾何学模様が無断でトイレットペーパーの柄に使われていることに腹をたてて訴訟まで起こしているロジャー・ペンローズの話など、どれも読んでいて面白い。
紹介されている物理学者たちに共通していることは、人の目を気にせず、遊びも含めて自分のやりたいことをやり通している点である。痛快な読了感はなんとも言えず、人の目を気にして真面目にコツコツと仕事する人生はアホらしく感じてくる。文庫本1冊たった700円で人生観が変わるなんて、とっても効率的な投資である。
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成毛眞の「オールタイムベスト10」にもランクインしている『ご冗談でしょう、ファインマンさん』
生命科学者の話も面白い『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』