アメリカ最高のNPOがとうとうベールを脱いだ。
創業者ダレル・ハモンドは8人兄弟の下から2番目に生まれた。父親は生後1年9ヶ月でトラックの積荷を降ろしてくると出かけたきり失踪、帰ってくることはなかった。母親はいくつもの職を掛け持ちをして子どもたちを養おうとしたが、8人もの子供は負荷が大きすぎ、役所のソーシャルワーカーによって8人の子どもたちはムースハートという施設に入所することになった。失踪した父親も大家族の16人兄弟で、父親の両親(ハモンドの祖父母)も政府から子どもたちの養育資格を奪われ、16人の兄弟はバラバラとなった。父親の他の兄弟姉妹も7人、11人と大家族を形成していたのである。世代を跨いで悪循環が続く家庭環境にハモンドは生まれた。
家族の悲劇は続く。兄弟姉妹が尊敬する姉のキティが殺されたのだ。正確にはいざこざの中でキティが共に再婚だった夫を殺害し、その後自らに銃口を向けたのだ。他の家族はその事実を受け入れることが難しく、今でも否定するが、ハモンドはそれを受け入れた。”彼らみたいになりたくない。”そういった家族を振り払いたい刺々しい感情が芽生えてきた。
姉の死後まもなく、コミュニティ作りの天才で、ABCD(Asset-Based Community Development)研究所を設立したジョディ・クレッツマン博士と出会う。(米大統領の妻ミシェル・オバマも博士のの助手を勤めた)ABCDはコミュニティにないものではなく、そこにある資産に目を向け活用するコミュニティづくりの実践理論である。理論を学んだ後の実践的な研修で、後にカブームの理事となるヘレンのもとで働き始めた。シカゴ公園局が対象とする77の居住地区で業者に委託して開催するのではなく、住民たちが自ら企画し実行する祭を企てるようサポートする仕事で開眼した。コミュニティのために誰かが行うのではなく、住民自身が計画し実行するほうがはるかにいいものが出来上がる。
その後、学費の借金が原因で大学を中退し、奉仕活動の世界に飛び込んだ。いくつかの組織を渡り歩く中でKABOOM!の原型となる子どもたちの遊び場を作るプロジェクトがスタートした。最初のプロジェクトはハモンドのとっさの提案だった。きっかけは大学1年のころに友人の母親から頼まれて、遊び場を作る手伝いを思い出したこと。小旅行ができてただでビールを飲める、不純な動機で参加した遊び場作りだったが、まさか人生のターニングポイントになるとは思ってもいなかった。
KaBOOM!という組織名は、ドッカーンという爆発音を意味する。空き地だった場所がカブーン!って感じで一気に公園になる様を表現しているが、誰にも理解されないリスクがあるネーミングをぶらぶらと散歩しているときに勢いで決めてしまった。
そして、その名に勝るとも劣らないてんやわんやの創業期を駆け抜けていく。仕事が増えれば、従業員を10数名直感を頼りに採用し、他のNPOから借りたスタッフ向けハンドブックを組織名を一括変換して利用し、期待して雇った従業員にクーデターを起こされたり…。本業もどうやって達成していいかわからない目標への約束をし続けていた。
その中で4〜5日間かかっていた遊び場作りのプロセスにイノベーションが起こった。ここが彼らの真骨頂である。1日で遊び場をつくり、更にその体験をつまらないボランティアの奉仕活動ではなく、参加者全員に最高の体験を提供することに決めて、それを実現したのだ!!その最高の体験は従業員も参加できるプログラムで地域に貢献したい企業に評判もよく、15年間で2億ドルを超える資金を調達し、2000以上の遊び場を建設している。またコミュニティには成功体験をもたらされ、地域の絆を再生するきっかけとなる。1日の動きを1分で早送りした動画を見れば、その参加者の多さ(200人以上!?)と手際のよさが理解できる。
http://www.youtube.com/watch?v=e8wG_8BguVo&feature=youtu.be
さらにKaBOOM!は進化する。より多くの子どもたちに遊び場を届けるため、遊び場をつくる経験と知恵を共有するオンラインプラットフォームを構築した。「一対多」のモデルから「多対多」へと進化し、KaBOOM!が直接マネジメントせずとも、遊び場を創りたい人が自分たちで創れる環境を提供した。その成果はすぐに現れ、KaBOOM!が直接マネジメントして作る遊び場が1つできる間に10の遊び場がオンラインでの学びを通じて建設されている。見事にスケールアウトした。
KaBOOM!の使命は2つの側面がある。ひとつは空き地を美しい遊び場に変えて、子どもたちにより良い遊びの機会を提供すること。もう一つはコミュニティの変革を助けること。一方でアメリカでは子どもたちの遊びが危機にさらされている。子供が遊び場で怪我をし、親が訴訟を起こすことで地域から遊び場が撤去され、学校の休み時間が短縮されている。習い事で忙しく自発的な遊びの時間をとることができない子どもたちもいれば、テレビがベビーシッターがわりの子どもたち。子どもたちにより良い遊びの機会を提供するために、KaBOOM!とハモンドの挑戦は続いていく。
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ゲイツ財団も注目するトイレ。トイレが足りず衛生環境がよろしくない発展途上国の地域ではコミュニティの参加型でトイレを作っている。政府が住民を巻き込まずに、れんが造りのしっかりしたトイレをつくると、家畜小屋や倉庫になってしまう。彼らの家より立派な建物だから。トイレをトイレとして機能させるのは案外難しい。
こちらも疾走感溢れる本。0円でやれることは偉大だ!