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HONZの「今週はこれを読め!」

こんにちは。栗下直也です。

「ショーケン」の愛称で親しまれた歌手・俳優の萩原健一さんが先日死去しました。世代的には「うまいんだなー、これが」の台詞が印象的なサントリーのビールのCMに出ていた人なんですが、ショーケンとグループサウンズ最盛期に人気を二分したのがジュリーこと沢田研二らしいですね。ええ、リアルタイムで見ていないんで、らしいとしか表現できないのですが。正直、ジュリーも私の中ではキリンビールのCMに出ていた小太りのおじさんってイメージしかありません。で、今日のメルマガのテーマですが、ショーケンでもジュリーでもなく、シローです。ザ・タイガースといえば、岸部四郎です。

私は80年生まれですが、同時代の人の岸部四郎の印象は「不機嫌そうなおっさん」ではないでしょうか。小学校が長期休暇の時に、朝のワイドショーの司会のおじさんがめっちゃ不機嫌そうな顔をしていて、「うわ、こわっ」と思っていたら、その人が岸部四郎でした。こんなオジさんがなんで司会しているんだと親に聞いたら、人気バンドの一員で、ボーカルの邪魔にならないように、音の出ないタンバリンふっていたのよと、説明され、今考えるとそれが司会ができる理由には全くならないんですが、幼心に「ああ、音の出ないタンバリンを振らなきゃいけないなんて大人って大変なんだな」と思った記憶があります。

で、その岸部さん、本を何冊か出しているのですが、ムッチャ面白いです。中でも『岸部のアルバム―「物」と四郎の半生記』はコレクターの楽しみと悲しみを惜しみなく披露しており、HONZ読者には共感する人も多いのでは。

テレビの時代劇「父子鷹」に出演することになり原作(子母沢寛著)を読んでいたら、江戸の世界にのめり込んでしまったのが運の尽き。いつのまにか明治時代の文人の初版本を集めるようになり、古道具、陶器、ガラス器、書、絵画と集めまくります。そこらでおさまるかと思いきや、おもちゃ、楽器、ジーンズまで広げて、徹底的に買いまくり。もはや、骨董屋の域に達しちゃう。それも、後先考えずに「欲しいものは欲しい」と値段も見ずに買っちゃうから、当然、私生活にも支障が出る。デビュー当時から、酒もギャンブルもほとんどせず、撮影時の弁当を持ち帰ったことから「ケチ」のレッテルですら貼られていた著者が、将来価値も全く考えずに、我慢しないで買いまくる様は圧巻。こんな生活していては、いつか生活が破綻するぞと思うでしょうが実際、コレクター気質が遠因となって離婚に至るあたりもさらっと書いてあります。この本を出して数年後には自己破産してしまうから、なんとも。ちなみに岸部四郎は資金繰りが回らなくなり、方々に借金するのですが、「最高ですか!」の掛け声で知られる福永法源に金を借りに行って断られたという凄いんだが凄くないんだが謎なエピソードの持ち主でもあります。

どうですか。シローに興味が沸いたでしょうか。本書以外の岸部本のおすすめは、『岸部シローの暗くならずにお金が貯まる―貯めだしたらとまらない』。これ、1983年の本なのですが、後に自己破産することなど一ミリも想定していないところが、読み手としてはたまりません。いささか悪趣味かもしれませんが、今週もメルマガスタートです。

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