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こんにちは。最近、昭和の流行作家、獅子文六の復刊が相次いでいます。産経新聞の2016年8月1日の記事によると2012年に復刊した『コーヒーと恋愛』は17刷、2014年に初文庫化した『七時間半』は7刷りの人気とか。音楽好きな人はご存じかもしれませんが、『コーヒー~』は担当編集者が、ロックバンドのサニーデイ・サービスのアルバム『東京』に収録された「コーヒーと恋愛」で本作を知り、企画したとか。
まさかの「サニーデイ・サービス」の表記に今日のメルマガはいつもと違う人間が書いているのかと不安な読者もいるかもしれません。大丈夫です。「安心してください、吐いてます」のメルヘン栗下です。この少し時代遅れのネタを絡めるあたり間違いなく私です。
さきほどの記事では「家族の絆や恋愛といった現在でも関心の高いテーマを扱っており、まったく古さを感じない」と編集者が人気の背景を分析していますが、腐ってもHONZレビュアーとしては、獅子文六で、ほっこりさせる気はさらさらありません。9月に改版が発行された『私の食べ歩き』に収録されている一編のエッセイを是非ともご紹介したいのです。
タイトルは「泥酔懺悔」。こんなに泣ける四字熟語があったでしょうか。全米は泣かなくても新橋は泣きます。獅子が酒量も落ちた晩年に、人生の泥酔史を振り返っているのですが、これが酔いどれサラリーマンを元気づけることが間違いない記述に溢れているのです。
例えば、
”待合の屋根に登り、月明の下に輝く、隣りの待合の屋根を眺めてると、今飛びさえすれば、失敗なしに向うの屋根に飛び移れるという確信を持った。それは、実行しようとして、女中や友人に引き止められたが、あの時やったら、案外、うまく飛べたのではないかと、今でも考えている。”
無理です。死にます。
”若い頃は、酒を飲むと、普通の倍ぐらい、体力が殖えたような気がした。ムヤミに駆け出したくなって、そのとおり、実行してみると、非常に速力が早く、イキ切れなぞをしない。腕力も倍加する。”
イキ切れまくりです。ある意味、イキ切れなぞを永遠にしない状態にまっしぐらです。
私も飲んだ帰りに、路上に不審車が止まっていると、怖くなり走って逃げ出したくなる衝動に駆られます。車からすれば明らかに私が不審者なのですが。ズボンのひもや靴紐を結び直し、同伴者に「ちゃんと逃げろよ」とささやく始末。まっすぐに歩くことすらできない奴が何を言っているのでしょうか。
極めつけは物資が困窮していた時代に知人の結婚式で酒がなくなった際のふるまい。飲み出したら泥酔に至らなければ承知が出来ない獅子と知人の仏文学者の中島健蔵は「エチールとオリザニンでいこうじゃねえか」と薬局に駆け込みます。薬局も酔っ払い相手とはいえ、「薬品」は出さないわけにはいかないから、しぶしぶ出す破目に。中島が慣れた手つきで調合して獅子に薦めたのですが・・・。「エチールを一壜」空けた結果が気になる方は是非本書をお読みください。
まさに泥酔、泥酔、どこまでも泥酔の本エッセイを読み返す直前に私、人間ドックに行ったのですが、案の定、明らかに多量飲酒の影響が濃い結果に。元来、気が小さい私はそれ以降、サラダとささみに水をがぶ飲みしていましたが、「泥酔懺悔」を読み直し、再び食生活が戻りつつあります。「エチールを一壜」よりひどい結果になるとは思えませんから。
今週もメルマガスタートです。
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